町の本屋の「闘い」

今回は、4月の特集「ようこそ本の世界へ」の8回目として、木村元彦さんの「13坪の本屋の奇跡」(ころから)をご紹介します。

この本の副題は「『闘い、そしてつながる』隆祥館書店の70年」とあります。
「闘い」とは何でしょう? カバーの見返しには、次のようにあります。

「いま『町の本屋』が消えていっている。本が売れないから、というのは理由のひとつでしかない。そこには、『売りたい本が来ないから』という理由がある。『いらない本が送りつけられるから』という理由もある。どういうことだろうかー

創業70周年を迎えた大阪・谷六のわずか13坪の本屋「隆祥館書店」からいまの出版界はどう見えるのか? ジャーナリスト木村元彦が町の本屋の『闘い』を丹念に描きだす」

町の本屋が消える「これは知性の劣化」

「いま『町の本屋』が消えていっている」。その具体的数字をみると驚いてしまいます。
「日本の書店はどんどん廃業に追い詰められていて、1999年には約23000軒あったものが、2018年には約8000軒に減少していた(図書カード取扱店数)」というのです。

19年間で1万5000軒も減っています。これは、1年で800軒近くが「消えて行っている」計算になります。

「小さな町の書店が潰れると、どんなことが起きるか」。木村さんは、文藝春秋で販売を担当していた方の言葉を紹介しています。

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「町の小さな本屋は体内を走る毛細血管のようなもの。毛細血管が詰まるとどうなるか? 静脈がやられ、動脈がやられ、最後は心臓が止まる。本も一緒です。毎年月刊文藝春秋は3000冊ずつ、部数が減っている。これは知性の劣化ですよ。そういうものを防いでくれるのが、町の書店です。地域の人が欲しい本を分かってくれて運んでいるんです」

ところが、小さな本屋には「欲しい本が入ってこない」という現状があります。「ランク配本」、「見計らい配本」という制度があるからです。

本書では、隆祥館書店の創業者・二村善明さんの長女で、現店主の二村知子さんが「週刊金曜日」に執筆した「出版取次店 『見計らい本』制度の見直しを」という記事の一部が紹介されいます。とても分かりやすいので、少し長いですが引用します。

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ここで『見計らい配本』制度について説明させて下さい。出版流通業界の慣行なのですが、書籍の問屋に当たる取次店が書店の注文していない本を勝手に見計らって送ってくるシステムです。

一方的に送られてくる本の中には、私たち隆祥館書店としては売りたくない差別を扇動するヘイト本やお客様から見てニーズの無い5年も前に出た本などが多く含まれています。そういう本も送られてきた以上は書店は、即請求され、入金しないといけないのです。

一方で本当に売りたい本、欲しい本は発注してもランク配本という制度によって送ってもらえないという現状があります。大型書店が優先されて小さな書店は、例えばその売りたい作家の本の販売実績がどれだけあっても後回しにされてしまうのです。

もちろん取次の担当の方の中にはこの制度に抗うように小さな書店の依頼に親身になって本の手配に奔走して下さる社員の方がいらっしゃいます。悪いのは制度なのです」

本屋がつなぐ「作家と読者の集い」

本書は2部に分かれていて、これまでは第1部「本屋が闘う」、ここからは第2部「本屋がつなぐ」について紹介します。

第2部では、「隆祥館書店のもうひとつの歴史である『作者と読者の集い』の歩みをひも解いて」います。お客の要望に応えるかたちで手探りで始めたトークイベントであったが、このシリーズは今では店の代名詞のようになっている」そうです。

その大きな特徴は、「本を売るための販促ではなく(もちろんその側面もあるが)地域の人々に、有名ではないけれどこんな隠れた名著があるというアナウンスの役割であったり、共に学ぼう、知ろうという姿勢にある」といいます。

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「作家と読者の集いの記録」の一覧表が載っているのですが、2011年の10月から2019年9月まで242回を数えています。平均して月に2・5回です。同店の多目的ホールを中心に、「『場所貸し』ではなく、二村知子が当該書籍を読み込み、原則として二村が聞き手となってきた」といいますから、すごいですね。

本書では、「代表的で象徴的な4人の方々」という、藤岡陽子さん(作家)、小出裕章さん(科学者)、井村雅代さん(シンクロナイズドスイミング・コーチ)、鎌田實さん(医師)のライブが紹介されています。会場の読者とのやりとりもあって、興味深く、楽しく読めます。

ちなみに、二村さんはシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)の元日本代表選手で、井村さんは恩師です。

井村さんを「集い」に招いた理由について二村さんは次のように語っています。
「シンクロをやめても、井村先生から薫陶を受けたことが、子育てにも自然と受け継がれました。先生から教わったのは、どんな状況でも決して諦めないこと。目標を達成するための心の持ち方、取り組み方だった。それらを、子育て中の親御さんや、目標を達成したいビジネスマンに、伝えることに意義があると思ったから、『作家と読者の集い』に出ていただこうと思ったんです」

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最後に、創業者の善明さんが亡くなった時に、隆祥館書店ニュースの号外に知子さんが掲載した「故二村善明からのメッセージ」をお読みください。

「従来から書店は地域の文化の発信地の役割を果たすべきだと言われてきました。子供たちに読書を広め、その読書力に貢献し、遠くまでゆくことの出来ないお年寄りの読書の力添え、作家と読者への橋渡し、そしてその心の交流、出版をただ売れればいいという商業主義の餌食にすることなく、出版を文化として作家を支え、読者が出版を育てるこの仲介者が書店と考えております。手に取る『本』、出版物を未来あるモノにしたいというのが私たちの望みです」

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著者の木村元彦さんは、東欧やアジアの民族問題を中心に取材、執筆活動を続けている方ですが、「オシムの言葉」などサッカー関係の著作も多数あります。次回は、「争うは本意ならねど」を取り上げる予定です。

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