今回は、「ミスター・卓球」あるいは「ピンポン外交官」と呼ばれた荻村伊智朗さんの波瀾万丈の人生を描く「ピンポンさん」(城島充、角川文庫)の紹介です。

この作品は、世界選手権のタイトルを12個も獲得し、現役を退いてからも指導者や国際卓球連盟の会長として世界各国を飛び回った荻村さんと、彼を支えた女性の物語でもあります。卓球というスポーツ、その歴史、「ピンポン外交」について知ることができ、さらにはスポーツとは何かを考えさせられる、学ぶことの多いとても面白い一冊です。

この作品で、私が特に印象に残ったのが次の一節です。

身体的文化であるスポーツの場合、“人間能力の限界への挑戦”という目標の方が、“時代の選手に勝つことの工夫”という目標よりも、はるかに高い」

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それは、「“時代の選手に勝つ”という低い次元の目標にとらわれると、もしその時代の選手のレベルが低い場合、低いところで自己満足することがおこる」からだといいます。

私は地元のサッカークラブであるアルビレックス新潟を応援しているのですが、チームは今シーズン6年ぶりのJ1復帰を決めました。そのチームが目標としていたのが「J1で戦えるチームとなる」ということでした。

ただ「J1に昇格する」というのではなく、「J1で戦えるチーム」という高い目標に向け、3年かけて成長し続けてきたことが、今シーズン実を結んだと思っています。荻村氏のコトバには、強く共感します。

氏のコトバは、さらに続きます。そこからは「ピンポン外交官」として世界を飛び回った氏の、グローバルな思考、思いが伝わってきてます。

祖国のため、もいいが、それではヨソ<他国>を否定することになる。それで人間が共存していけるのだろうか。矛盾があるんじゃないか、と僕は思う」

日本の選手であろうと中国、スウェーデンの選手であろうと、非常に充実したものを持っていて、世界のヒノキ舞台で立派な試合をやって人間の文化の一端に少しずつ光を増してゆく、ということができれば、最高だと思う

これは、スポーツに限らず、文化や芸術、あるいは政治などでも、そうなれば「最高」なのではないでしょうか。

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それは、サッカーのJリーグにもいえることかもしれません。「地域のため」あるいは「地域を元気にするため」にめに戦う、応援することはとても素晴らしいことです。だからといって、他のチーム(他の地域)を否定することはあってはならないと思います。

互いにリスペクトしながら戦うことが、「立派な試合」をやることに繋がり、それがJリーグ、ひいては日本のサッカーの発展につながるのでは、と信じています。

まもなくサッカーの4年に1度の祭典・ワールドカップが幕を開けます。アルビレックス新潟からはトーマス・デン選手がオーストラリア代表として、またかつて所属したキム・ジンス選手が韓国代表として出場します。

日本代表はもとより、この2選手、そして「非常に充実したものを」を持った世界の一流選手たちがどんなプレーをし、「立派な試合」をしてくれるのか、楽しみです。スポーツのすばらしさを存分に味わいたいと思います。

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以下、この本から私の「付箋した」うちの3か所だけ紹介して終わります。

人間は決心した瞬間に、目標に一歩近づいているんだ

自信とは『自分が他人より勝っているという意識』ではない、と私は思う。自分の特徴をしっかりと知り、それを生かしてやることから生まれる“しっかりとした態度”が自信ある態度なのだ。自信と優越感は違う

「一番大切なのは命だ。命というのはイコール時間だ。時間はすべての人間に平等に与えられている。世界チャンピオンのワルドナーだって、一日は24時間しかない。彼にだけ、一日が48時間もあるわけじゃないんだ

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