「子どもたち、詩を読みなさい。とびきり上等のいい詩を読みなさい」。「ポケット詩集」(童話屋)の「まえがき」の冒頭で、編者で童話屋代表の田中和雄さんは、こう呼びかけ、続けます。
「いい詩というのは、詩人が自分の思いをどこまでも深く掘りさげて普遍(ほんとうのこと)にまで届いた詩のことです。詩人の仕事は、生きる歓びをうたうことです。いい詩はみんな、生きる歓びにあふれています」
さらに続けます。「いい詩を読むと、ふむふむそうか、となにかがわかります。やさしい気持ちになります。疑問に思っていたことがぱっと解けることもあります。自分の存在に疑問をもったら『くまさん』や『ぼくがここに』を読みなさい』」。
「くまさん」とは、まど・みちおの詩です👇
「はるが きて/めが さめて/くまさん ぼんやり かんがえた/さいているのは たんぽぽだが/ええと ぼくは だれだっけ/だれだっけ」で始まる、ひらがなだけの二連の詩です。
田中さんはこれ以外にも、友だちとの関係に悩む人は「聴く力」(茨木のり子)、恋しい人ができたら「鳩」(高橋睦郎)、自分はどうい生きたらよいかわからなくなったら「雨ニモマケズ」や「表札」(石垣りん)、「わたしを束ねないで」(新川和江)を読みなさいなどと紹介しています。
この「ポケット詩集」は全3巻のアンソロジーで、1巻目のこの本は、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」で始まります👇
茨木のり子さんの「聴く力」、まど・みちおさんの「くまさん」と続き、全部で32編が紹介されています。最後は茨木のり子さんの「自分の感受性くらい」です。
「まえがき」の最後の部分を紹介します。
「生まれてから死ぬまでの一生の間、自分はなぜ生まれてきたのか、何の用事でこの地球上にいるのか、ほんとうの生き方というのがあるのか―悩みはつきません。その折り折りにこの詩集は役に立ちます。気に入った詩にであったらなんども読み返し、時には声にだして読んでごらんなさい。
読み返すたびに、階段をおりてゆくように、真実の底にたどりつくでしょう。生きていてよかった、と思うときが、かならず、きます。
この詩集を、ほんとうの子どもたちと、子どもの心を持った大人たちに捧げます」
「ポケット詩集Ⅱ」は、高村光太郎の「道程」で始まります👇
「僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る」で始まる高村光太郎の「道程」、とても有名ですよね。
谷川俊太郎さんの「二十億光年の孤独」、国木田独歩の「山林に自由存す」と続き、最後は吉野弘さんの「奈々子に」です。
「ポケット詩集Ⅲ」は、茨木のり子さんの「水の星」で始まります👇
江國香織さんの「父に」という詩や、「さよならだけが/人生ならば」で始まる寺山修司の「幸福が遠すぎたら」なども入っていて、谷川俊太郎さんの「朝のリレー」で終わります。
3巻とも、まさに「とびきり上等のいい詩」がつまっています。「生きる歓びにあふれ」た詩の数々からは、励まされ、生きるエネルギーをもらえ、心を豊かにしてくれます。
文庫本とほぼ同じ大きさで、表紙が硬いハードカバーになっています。このためポケットやカバンの中に入れていても傷むことがありません。通勤・通学のバッグやリュックの中に、あるいは旅行鞄にしのばせて、折々にページをめくってみてはいかがでしょう。
「子どもたち、ポケットにしのばせるのは、ナイフでなく、一冊の詩集であってほしい」ー。田中さんは「Ⅲ」の「まえがき」を、こう締めくくっています。