「この新版を刊行するにあたって第一に念頭にのぼるのは、つねに若い世代の読者である。若い皆さんが、本書から不戦、反戦平和の遺志をうけとり、あなたの生き方、社会や歴史の見方を養う糧としてくださるよう心から願う」

これは、「きけ わだつみのこえー日本戦没学生の手記ー」(日本戦没学生記念会編、岩波文庫)の冒頭にある「読者へ」の最後にある言葉です。「第2集 きけ わだつみのこえ」(同、同)にも同じように「読者へ」があるのですが、こちらは次のように結んでいます。

「本書に遺稿を収めた戦没学生が極限状況のなかで書き残した文章は、周囲の人々への愛情に満ち、失われようとする生への嘆きにあふれている。そして、自らが見届けられなかったよりよい明日への希望を、後の世代に託している。改定作業を通じての私たちの思いは、ただ一つ、青春を断ち切られた先輩学徒の悲痛な言葉を、徴兵も戦争も知らない若い人々が読み取り、しかと受けてめてほしいことに尽きる」

「きけ わだつみのこえ」と「第二集 きけ わだつみのこえ」には、大戦で亡くなった合わせて112人の遺稿が載っています。それぞれには、①生年月日と出身地②学歴③軍歴④戦没の日付けと事由、戦没時の軍人としての階級、満年齢ーが記されています👇

上の画像にある上原さんの遺稿は、「きけ わだつみのこえ」の最初に紹介されています。

「栄光ある祖国日本の代表的攻撃隊ともいうべき陸軍特別攻撃隊に選ばれ、身の光栄これに過ぐるものなきを痛感致しております」で始まり、「言いたい事を言いたいだけ言いました。無礼を御許し下さい。ではこの辺で」で終わるこの手記は、「出撃の前夜記す」とあります。

上で「言いたい事を言いたいだけ言いました」とあります。
この手記には「空の特攻隊のパイロットは一機器にすぎぬ」という表現や、「権力主義全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも、必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。我々はその真理を、今次世界大戦の枢軸国(日本・ドイツ・イタリア三国同盟の諸国)において見る事が出来ると思います」といった記述があります。

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かなり自由に書かれていますが、これは例外的といえます。小田切秀雄さんが「この本の新しい読者のために」で、「ここに収められた手記や手紙や日記は、ふつうの条件のもとで書かれたものではない」といい、次のように書いています。

「戦時下というだけでなく、日本軍隊の徹底した私生活支配が手紙や日記にまで及んで、すべて厳重な検閲のもとにおかれており、自由な表現は原則的に行われていない」のです。このため「最後の出撃を前にしての家族あての別離の手紙までが、型どおりの軍国主義用語で書かれるのがふつうで、真情の吐露は堅く禁ぜられて」いました。

「面会にきた友人にこっそり持ち帰ってもらったりという例はあるが、それはまったくの例外」であったのです。上の上原さんの手紙も、そういう例外の一つだったのでしょう。

とはいえ、掲載されている手記はいずれも、過酷な状況を伝え、自己の内面をみつめ、戦争に対する疑惑や不信、絶望をにじませながら、肉親、そして祖国へのの思いを伝えています。

まさに、最少の紹介した通り「戦没学生が極限状況のなかで書き残した文章は、周囲の人々への愛情に満ち、失われようとする生への嘆きにあふれている。そして、自らが見届けられなかったよりよい明日への希望を、後の世代に託している」のです。

「きけ わだつみのこえ」の「感想ー旧版序文」で渡辺一夫さんは、フランスの詩人ジャン・タルジューの詩を最後に紹介しています。

死んだ人々は、還ってこない以上、
生き残った人々は、何が判ればいい?

死んだ人々には、慨(なげ)く術もない以上、
生き残った人々は、誰のこと、何を、慨いたらいい?

死んだ人々は、もはや黙ってはいられぬ以上、
生き残った人々は沈黙を守るべきなのか?

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この詩について、以前紹介した映画監督の黒木和雄さんは著書「私の戦争」(#131 反戦と平和を訴え続けた映画監督 黒木和雄「私の戦争」 | アルビレックス新潟と本のある幸せ (husen-alb.com))で、長崎に原爆が投下されるまでの24時間を描いた「TOMORROW/明日」について、「私がこの映画で切に描きたかったも思いのひとつ」としてこの詩を引用しています。

黒木さんは、次のように書いています。
「情報の氾濫に身をまかせて何事も一知半解の知識のままに過ごしてしまう日常、公害も原発も、戦争ですら既知のこととして何もしないで傍観してしまう姿勢、ことによると私たちの『明日』は、少なくとも私自身の『明日』は、あの日を生きた人びとよりも無神経で無自覚なのかもしれません」

きょう9日は、77年前に長崎に原爆が投下された原爆の日でした。
サッカーJ2アルビレックス新潟の島田譲選手が、次のようなツイートしていました👇

「”自分ごと”として当事者意識を持つ事」。それこそが、求められているのではないでしょうか。自分の応援するクラブに、島田さんのような選手がいることを誇りに思います。

「当事者意識を持つ」ためにも、ぜひ「きけ わだつみのこえ」を読んでいただけたらと思います。

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