8月に入りました。今月の特集は何にしようかと考えましたが、8月はこれを避けてはなりません。今月は、戦争と平和について考えるための本を多く紹介したいと思っています。あまり堅苦しくならないように、小説などを中心に取り上げる予定です。よろしくお願いします。

まず最初は、「戦争鎮魂歌三部作」でおなじみの映画監督・黒木和雄さんの著書「私の戦争」(岩波ジュニア選書)と、鎮魂歌(レクイエム)三部作について、簡単にご紹介しようと思います。

黒木さんの「戦争鎮魂歌三部作」は、「TOMORROW/明日」(1988年)、「美しい夏キリシマ」(2002年)、「父と暮せば」(2004年)の3作品をいいます👇

まず著書の「私と戦争」は、黒木さんの生い立ちから、映画を撮るようになった経緯、そして監督した作品や共演者、スタッフなどについて綴られています。

黒木さんは1930年に宮崎県生まれです(2006年没)。少年期を満州で過ごし、中学からは宮崎県のえびの市に戻ります。1945年5月8日、勤労動員先で米軍機の空襲に遭い、親友ら学友11人を失います。

順番が前後しますが、「美しい夏キリシマ」は、この体験を元にした自伝的作品です👇

柄本佑さん演じる映画の主人公・日高康夫は黒木さんがモデルです。著書に載っている映画のパンフレットにあらすじには、こうあります。

「康夫は空襲のショックから体調を崩して校医から肺浸潤と診断され、ぼんやりと自宅療養の日々を過ごしていた」
「目の前で親友が爆死し、彼を見殺しにして逃げたことから、康夫は日々罪悪感に苛まれ、自分の居場所すらも見つけられない」

黒木さんにとっては、「あのときの体験は私にとっていちばん描きたくない、映画にしたくない」ことでした。なぜなら「瀕死の友人を見捨てて逃げたということを、私はいまだに恥ずかしく思い、後悔し続けている」からです。

しかし「有事法制が現実化して今の時代が戦前の状況に似てきているという私の危機感があり」、何よりも「戦争で亡くなった友人たちを知る自分が死んだら、誰も彼らのことを語れなくなり完全にこの世から忘れされれてしまう」「若くして死んだ学友たちの無念さを、これからの時代を生きる人びとに伝えなければなりません」と、作品をつくる決意をしたそうです。

一方、「TOMORROW/明日」は、長崎に原爆が投下されるまでの24時間を描いた作品です👇

原作は井上光晴さんの「明日」(集英社文庫)です。ただ、映画向きに「原作を解体し、再構築」したといいます。映画の時系列は、「8月8日の午前11時ごろから、翌9日11時2分までのおよそ24時間。それを現在進行形にして、この映画ではいっさい回想シーンを使わないことに決めました」といいます。

8月8日の長崎。うだるような暑さの中で、戦時下らしいつつましやかな結婚式が始まります。三浦泰一郎(長門裕之)とその妻ツイ(馬渕晴子)の次女ヤエ(南果歩)が花嫁で、花婿(佐野史郎)は製鉄所の工員です。

式の途中には、花嫁の姉ツル子(桃井かおり)に急の陣痛が来て、未明には元気な子どもが生まれます。原爆投下前日の爆心地周辺の家庭では「明日」も平穏な暮らしが続くはずでした。

しかし、1945年8月9日午前11時2分、長崎の上空に閃光が光ります。この家族をはじめとした多くの人々の「明日」が一瞬に消え去ってしまいます。

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黒木さんは同書で、「人類史上初めての原爆投下は、亡くなった人だけでなく、生き残った人びとを今もなお原爆症によって苦しめています」とし、「原爆投下は人類が人類にたいして行った最大の虐殺と言っても過言ではないでしょう」と書いています。

その上で、次のようの綴っています。

「広島、長崎への原爆投下によって『何十万人も死んだ』とひとことで語られます。しかし、爆心地の周りにいた人びとはみな、誰かの父親や母親であり、最愛の子供たちだったのです。そのことを忘れてはなりません」

「核兵器があるから今の平和が保たれていると考える人たちがいます。しかし、それがこの世に存在している以上、絶対に使われないという保証はありません。人類を滅ぼすための道具、そんな恐ろしいものが一日も早くこの世からなくなることを願ってやみません」

「戦争鎮魂歌三部作」のもう1作「父と暮せば」については、次回書きます。

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