野坂昭如さんの「火垂るの墓」(新潮文庫「アメリカひじき・火垂るの墓」)は、スタジオジブリのアニメにもなり、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

原作も、原作をほぼ踏襲している高畑勲監督作品のアニメも、戦争に翻弄されて浮浪児となった、兄・清太と妹の節子の兄妹が栄養失調で衰弱死するまでを描いています。

物語は、1940(昭和20)年の9月21日に神戸市の「省線三宮駅」(現在のJR三ノ宮駅)で清太が栄養失調で亡くなる場面から始まります。駅員が清太の遺体の腹巻の中に小さなドロップ缶があるのを見つけます。妹の節子の遺骨が入っいるのですが、ふたがあかないので駅員は空き地に投げ捨てます。

この場面、野坂さんは次のように表現しています。

「駅員はモーションをつけて駅前の焼け跡、すでに夏草しげく生えたあたりの暗がりへほうり投げ、落ちた拍子にそのふたがとれて、白い粉がこぼれ、ちいさい骨のかけらが三つころげ、草に宿っていた蛍おどろいて二、三十あわただしく点滅しながらとびかい、やがて静まる」

蛍、ドロップ缶ともアニメでは何度か出てきて、とても印象的でした👇

物語はそこから、6月5日に神戸市が空襲を受ける場面に転じます。家を失い、その後は母を亡くした二人は親戚の家に引き取られます。しかし、叔母から冷たくあしらわれたことから、清太は節子を連れて池のほとりにある防空壕へ行き、そこで二人で暮らすことになります。

節子は4歳、清太は14歳です。頼る人はいません。清太は畑から芋を盗んだり火事場泥棒までしますが、節子は次第にやせ細り、ついには亡くなってしまいます。原作を読んでも、アニメを見ても、やるせなく、涙をこらえきれません。

原作者の野坂さんは14歳の時、6月5日の神戸で空襲に遭っています。1年4か月だった妹を栄養失調で亡くしていて、「火垂るの墓」は自伝的要素を含んだ作品といいます。

作品自体は文庫本で35ページしかないのですが、特徴的なのは1段落が長く、それも句点(「。」)がなく1段落1センテンスとなっているのがほとんどだということです。ですから、ちょっと読みにくイメージを受けるかもしれません。

「広告」(クリックすると別サイトに飛びます)

この作品は「アメリカひじき」とともに昭和43年春の直木賞を受けているのですが、本書の解説で尾崎秀樹さんは、選者だった大佛次郎の選後評を、以下のように紹介しています。

「野坂昭如君のものは、手のこんだ文体が賑やかだが、よくこれが続いたものと粘り強いのに感心したし、この装飾の多い文体で、裸の現実を襞深くつつんで、むごたらしさや、いやらしいものから決して目を背向けていない」

その上で尾崎さんは「この作品は野坂昭如の仕事のなかでも、とりわけ印象に残るものであり、彼の文学の原点となすといえよう。(中略)構成もきわめて自然であり、独特な関西弁をいかした饒舌体の文体が、その雰囲気をもりあげている」と書いています。

いったん読み始めれば、物語の世界に吸い込まれていきます。アニメだけでなく、ぜひ原作も読んでいただければと思います。

「広告」(クリックすると別サイトに飛びます)