太平洋戦争で日本がなぜ負けたのかを、「物量の差や一部のリーダーによる誤判断のせいにして片づけることなく、そうした誤判断を許容した日本軍という組織の特性を明らかにすることで、戦後の日本の組織一般にも無批判に継承された、この国特有の組織の在り方を分析」した名著であるー。
これは、前回(#137 史上最悪の失敗を反面教師に 「わたし定時で帰ります。」「失敗の本質」 | アルビレックス新潟と本のある幸せ (husen-alb.com))紹介した「失敗の本質」(戸部良一ほか著、中公文庫)について、「『超』入門 失敗の本質」(鈴木博毅、ダイヤモンド社)の著者の鈴木さんが評したものです。
「『超』入門 失敗の本質」について鈴木さんは、「失敗の本質」から「ビジネス戦略・組織論のコンサルタントとしてどのようなことを学び、仕事の現場で活かしてきたかを解説しながら、皆さんとともに学んでいく書籍」であると説明しています。
その目的については、「失敗の本質」は「素晴らしい示唆を豊富に含みながらも少し難解」なことから、「ポイントをダイジェストでまとめ、忙しいビジネスパーソンが『失敗の本質』を仕事で役立てられこと」としています。
この本は「日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ」という副題がつけられ、鈴木さんは「失敗の本質」を七つの視点で紐解き、1~7章に分けて解説しています👇
第1章は「戦略性」についてで、「日本人は『大きく考える』ことが苦手であり、俯瞰的な視点から最終目標への筋道をつくり上げることに失敗しがち。日本人の『「戦略性の弱さ』について解説」しています。
第2章は「思考法」で、「日本人は革新が苦手で錬磨が得意。行き詰まりを見せる日本的思考法から脱却するためにも、イノベーションへの導入として『「日本人特有の思考法』を解説」しています。
以下、3章「イノベーション」では、日本軍が米軍に「戦い方」において敗れた理由を読み解き、4章「型の伝承」は、私たちの文化と組織の中には、イノベーションの芽を潰してしまう要素があることを明らかにしています。
第5章「組織運営」、第6章「リーダーシップ」と続き、第7章の「日本的メンタリティ」で、「『空気』の存在や、厳しい現実から目を背ける危険な思考への集団感染、そして日本軍の敗北を象徴する『リスク管理の誤解』について」考えています。
私が特に興味深く読んだのが、組織運営を考察した第5章「なぜ、『現場』を上手に活用できないのか? 優秀な人材をまで殺す硬直組織の過ち」です👇
そこでは、「日本軍の組織運営の失敗に共通する点は、大きく二つあります」として、①上層部が「自分たちの理解していない現場」を蔑視している、②上層部が「現場の優秀な人間の意見」を参照しないーを挙げています。
ほかにも、日本軍の上層部の特徴として「現場を押さえつける『権威主義』」や「現場の専門家の意見を聞かない『傲慢さ」』という表現や、「不適切な人事は組織の敗北につながる」といった見出しが並びます。
米軍との人事・評価制度を比較した上での鈴木さんの言葉は痛烈です。
「厳しい課題に直面していたら、『お飾り人事』を徹底排除し、課題と配置人材の最適化を図ること。能力のない人物を社内の要職に放置すれば、競合企業を有利にさせる以外の効能はない」
本書の序章は「日本は『最大の失敗』から本当に学んだのか?」です👇
本書を通じ鈴木さんは「戦時下の日本軍と現代日本の恐るべき共通点」、すなわち最初にも紹介したように「戦後の日本の組織一般にも無批判に継承された、この国特有の組織の在り方を分析」しています。
最後に、「新しい時代の転換点を乗り越えるために」と題した、鈴木さんの「おわりに」の締めの言葉を引用して終わりにしたいと思います。
「歴史が現在に送り届ける教訓と願いは、この瞬間の閉塞感を打ち破ることでしょう。私たち現代日本人に宛てた大切なメッセージ、それが『失敗の本質』なのです」