今回は「史上最悪の作戦」といわれているインパール作戦について簡単に書きます。それは「大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直し、これを現代の組織にとっての教訓あるいは反面教師として活用する」ことは、とても重要だと思うからです。

でも、なぜ「わたし、定時で帰ります。」(朱野帰子、新潮文庫)が? と思われるかもしれません。この小説は6月に紹介しましたが(#96 働く人にとってお守りのような一冊「わたし、定時で帰ります。」(矢野帰子) | アルビレックス新潟と本のある幸せ (husen-alb.com))、主人公は「絶対に定時に帰ると心に決めている」IT関連企業で働く32歳の東山結衣という女性です。

読んだことがある方ならおわかりでしょうが、この作品にはインパール作戦についてのことが何度か出てくるのです。主人公がインパール作戦に興味を持ったのは、帰宅して缶ビールを出してテレビをつけたところ、NHKの古いドキュメンタリーの再放送が流れていたからです。

その場面、朱野さんは次のように書いています👇

「名前だけは結衣も聞いたことがあった。でもよく知らない。
『インパール作戦。それは昭和19年に日本軍が敵の連合国の拠点インパールを攻略するために決行された作戦のことである。無理に無理を重ねた戦いの結果、日本軍は3万人を超える死者を出して敗退することになった』
3万人。すごい数だ。結衣は食い入るように画面を眺めた」

さらに続けます。
「作戦を率いたのは、勇猛果敢で知られていた牟田口廉也司令官だった。
この司令官が立てた計画がむちゃくちゃだった。およそ十万人もの兵士にビルマとインドの国境の山々を越えて行軍させるというのに、食糧や武器の輸送力を必要量の十分の一しか確保できていなかった。それでも勝てる、と牟田口は見積もっていた」

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その上で朱野さんは、結衣にこう語らせています。
「さすが戦時中。おそろしいまでの精神論だ。
ただ、現代にもそういう人はいる。三谷がそうだ。有給をとらないで働こうと言っていた。まさに有給なき作戦だ」

三谷とは「新人は有給休暇なんてとらなくていい」といい、風邪をひいても休まない「皆勤賞の女」です。この物語にはほかにも、仕事中毒の人間、ブラック上司などがでてきます。この作品は、そういう人々と闘う結衣の姿を描いた「働き方に悩むすべての会社員必読必涙の、全く新しいお仕事小説」(文庫本カバー)なのです。

一方、もう一冊の「失敗の本質ー日本軍の組織論的研究」(戸部良一ほか、中公文庫)について、簡単に紹介します👇

冒頭に引用した、「大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直し、これを現代の組織にとっての教訓あるいは反面教師として活用する」は、この本の序章「日本軍の失敗から何を学ぶか」にある言葉で、これが本書の大きなねらいといいます。

本書は3章で構成されていて、第1章「失敗の事例研究」では、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦の六つのケースが取り上げられています。

インパール作戦については、「賭の失敗」として、冒頭にこう書かれています。
「しなくてもよかった作戦。戦略的合理性を欠いたこの作戦がなぜ実施されるに至ったのか。作戦計画の決定過程に焦点をあて、人間関係を過度に重視する情緒主義や強烈な個人の突出を許容するシステムを明らかにする」

第2章の「失敗の本質」では、戦略・組織における日本軍の失敗の分析、第3章の「失敗の教訓」では、日本軍の失敗の本質と今日的課題について書かれています。

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本書については次回にもう少し詳しく書く予定ですが、最後に本書の最後の部分を紹介して終わりにします。

「日本のトップ・マネジメントの年齢は異常に高い。日本軍同様、過去の成功体験が上部構造に固定化し、学習棄却ができにくい組織になりつつあるのではないだろうか。
日本的企業組織も、新たな環境変化に対応するために、自己革新能力を創造できるかどうかが問われているのである」

この本が単行本としてが出版されたのは1984年5月です。40年近くたって、状況はどう変わったのでしょうか。あなたはどう思われますか。

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