新しい環境はどうですか
新年度に入って10日が過ぎました。新しい学校やクラス、会社や職場には慣れましたか?
新たな道を歩み始め、充実した日々を送っている方もいるでしょう。一方で、慣れない環境でストレスを感じたり、「やっていけるだろうか」と不安になったりしている方もおられるかもしれません。
そんな時に本を読むことで、リラックスしたり、ストレスを軽くしたり、悩みに答えてくれたりします。
今回は寺田真理子さんの「心と体がラクになる読書セラピー」(ディスカヴァ―・トゥエンティワン)をご紹介します。
読書で心や体が元気になる
著者の寺田さんは、「読書セラピーのおかげで、うつ病から回復することができ」、その経験から日本読書療法学会を設立し、読書セラピーの研究と実践を続けてきたといいます。
そもそも読書セラピーとは、どんなものなのでしょうか。
読書セラピーは英語ではビブリオセラピーというそうです。「『書物による病気の治療法』という意味で、医学の分野で患者に医療過程で読書をさせることことをこのように名づけました。それがカウンセリングの領域でも用いられるようになった」そうです。
しかし、寺田さんが代表を務める日本読書療法学会では、「読書によって問題が解決したり、なんらかの癒しが得られたりすること」と幅広くとらえているとのことです。
この本でも、「治療レベルではなく、読書で心や体が元気になることを知ってもらいたいという思いから、『読書セラピー』とお伝えしています」。
さらには「そのため本書では、自分だけで読書セラピーを実践できるように、第2部では『本の選び方』などをお伝えしています。気軽に試していただきたいです」といいます。
寺田さんは、「はじめにー読書セラピーへの招待状」でこんな風に書いています。
読書は「ストレスを軽減し、寝つきをよくし、長生きさせてくれるうえに、共感力まで高めてくれる。そんな研究結果が出ているのです。健康寿命を延ばすためには読書が最も効果的だというAIの分析結果まであるほどです」
具体的には、イギリスの大学の調査では「音楽鑑賞や散歩、お茶やコーヒーを飲む、ビデオゲームで遊ぶといったさまざまなリラックス法のうち、最も効果的な方法が読書である」ことが分かり、「ストレスレベルを68パーセントも引き下げた」そうです。
アメリカの大学の12年間にわたる調査では「読書をする人は、読書をしない人に比べて2年も長生きするということがわかっています」。
イタリアの小学生、高校生とイギリスの大学生を対象とした調査では、「ハリーポッター」シリーズ(J・K・ローリング著/松岡佑子訳、静山社)を読むことで「移民や同性愛者、難民など、偏見を持たれがちな人々に対する若者の見方が大いに改善されたことがわかりました」というのです。
マンガも実用書もOK
それでは、どんな本を読めばいいのでしょう。
主に文学が扱われることが多いそうですが、「何もいわゆる古典名作」だけではなく、「詩や長編小説、短編小説、エッセイ、戯曲など、できる限り広く捉えます」ということです。
さらに注目したいのは、日本読書療法学会では、「マンガも素材に含めて広く捉えている」ことです。自身もマンガを活用してきたという寺田さんは、以下のように書いています。
「大切なのは、今の自分に合っているかどうかです。普段マンガしか読まない方が難しい本を無理に読もうとしても苦痛でしょうし、かえってストレスになり、読書自体が嫌になってしまうかもしれません。同じ内容をマンガで扱っていて、そのほうが読みやすくて理解できるなら、そちらを選ぶほうがいいでしょう。マンガで内容を把握できることで、本を読むハードルも下がります」
さらには、ハウツーものなどの実用書も活用できるといいます。「知識を得たり具体的なノウハウを学んだりすることで生活に役立てるというセラピー効果もある」からだそうです。
本書では「体の痛みにも読書セラピーは効くの?」「うつ病にも効果はあるの?」(この中では、「いやな気分よ、さようなら」(星和書店)が、「抑うつ気分の改善に効果的であるといわれています」と紹介されています)といったQ&Aが多く載っています。さらには実践編として、本の選び方や本の読み方、「こんなときには、こんな本! おすすめ本ブックガイド」もあります。
ブックガイドから1冊だけ、「不安でいっぱいになってしまったとき」をご紹介します。
ここで取り上げられている本は「なにか、わたしにできることは?」(ホセ・カンパナーリ 作/ヘスース・シスネロス 絵/寺田真理子 訳/西村書店)で、以下は紹介文の一部です。
「世の中の状況が暗いときは特に、悪化していく事態に何もできない無力感にとらわれてしまいがちです。そんなときは、この絵本の『おじさん』を通して世の中への関りを取り戻してください。自分が主体となって働きかけ、変えていけることがあると実感できれば、不安は和らいでいきますよ。」
ブックガイド以外にも本書ではたくさんの本が紹介されています。たとえばこんな感じです。
「著者の一人エラ・バーザトさんは、ムーミンの本を読書セラピーによく活用するそうです。抑うつ気分や喪失感など、大人が抱える問題を投影したような登場人物が多く、共感しやすいからだといいます」。(エラ・バーザトさんは『文学効能時点』=フィルムアート社)の著者の一人です)。
また、図書室の在り方を描いた小説として、「図書館ホスピタル」(三萩せんや/河出書房新社)とともに、このブログの#11で取り上げた青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」(ポプラ社)が紹介されています。
「不安に揺れる心を整えてくれるだけでなく、本質的な問題に向き合う力を与えてくれる読書セラピーを、あなたも活用してみませんか。
本書であなたが読書セラピーと出逢い、生きるうえでの支えにしてくれたら、こんなにうれしいことはありません。読書セラピーがあなたの人生を応援してくれることを願っています」。
寺田さんは、「はじめに」をこう締めくくっています。