心から自分を理解してくれる物語

「やっと見つけた…やっと出会えた…。心から自分を理解してくれる物語に。それが最初の感想でした。すべての働く人へ。そんな物語だと思います」

「ものすごく温かくて優しい本です。今、お仕事がただ辛いと感じている人、新しいことを始めたい人、本が好きな人は是非読んでください。五章から連なる短編集。私は5回以上泣きました」。帯にある書店員さんの推薦コメントです。

4月の特集「ようこそ本の世界へ」の5回目は、2021年の本屋大賞で第2位だった、青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」(ポプラ社、2023年3月にはポプラ文庫版も)のご紹介です。ちなみに青山さんは、今年の本屋大賞でも「赤と青とエスキース」(PHP研究所)が2位になっています。

書店員さんのコメントが並ぶ帯。図書館の本に貼ってある「背ラベル」が、帯だけでなく本本体とカバーにも印刷されています。

人生に迷ったら、本を開こう

上の見出しは、出版元のポプラ社さんの公式サイトの本書紹介ページにある、本書の拡材PDF画像にありました。それに続き、
「あなたは『本』に背中を押されたことはありますか?
『お探し物は図書室まで』は、思い悩む5人の人物が思いがけない本と出会うことで、
ほんの少し前を向く物語。
」とあります。

図書室は羽鳥区コミュニティハウスにあり、その奥の方には、探している本について相談に乗ってくれるレファレンスコーナーがあります。足を踏み入れると、「『ゴーストバスターズ』に出てくるマシュマロマンみたい」な司書の小町さゆりさんがいて、「何をお探し?」と、「思いがけず、優しい声」をかけてくれます。

作品は五章で構成され、年代も職業も違った「思い悩む5人の人物」が小町さんの元を訪れます。各章のタイトルは「名前 年齢 職業」からなり、一章は、「朋香 二十一歳 婦人販売員」です。小町さんとのやり取りが興味深いので、以下セリフだけ抜粋して引用します。

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「あの…パソコンの使い方が載っている本を…」
「パソコンで、どんなことをするの」
「転職サイトに登録しようと思っているんです。今の仕事に、やりがいとか目的が見つけられなくて」
「今はどんな仕事しているの?」
「たいした仕事じゃないです。総合スーパーで婦人服売ってるだけ」
「自分の仕事が…スーパーの販売員がたいした仕事じゃないって、ほんとうに、そう思う?」
「だって…。誰でもできる仕事だし。すごくやりたかったとか、夢があるとかじゃなくて、なんとなく入社しちゃった感じで。でも働かないと、ひとり暮らしだし、誰も養ってくれないし」
「でもあなたは、ちゃんと就職活動して採用されて、毎日働いて、自分で自分を食わせてるんでしょう。立派なもんだよ」

「お探し物は図書室まで」の目次です

かけがえのない一冊

その後、小町さんはパソコンの使い方に関する数冊分の書名、著者名、分類番号が並んだ紙をプリントアウトしてくれるのですが、一番下には「異質な文字の羅列」があります。朋香の場合は「ぐりとぐら」。そう、「野ねずみがふたり出てくる絵本」です。

なんで?と思いながら、5人とも「異質」な本を借ります。
そして、それを読むことで「明日への活力が満ちて」いきます。

「仕事や人生に行き詰まりを感じている5人」は、上の写真を見ていただければ分かるように、年齢も置かれた境遇もさまざまです。5人に選書されたうちの一冊が、あなたを後押ししてくれる一冊になるかもしれません。

これ以上詳しく書いていくとネタバレになってしまいますので、以下では私が「付箋」した「言葉」のうち三つ紹介します。

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「人生なんて、いつも大狂いよ。どんな境遇にいたって、思い通りにはいかないわよ。でも逆に、思いつきもしない嬉しいサプライズが待っていたりもするでしょう。結果的に、希望通りじゃなくてよかった、セーフ!ってことなんかいっぱいあるんだから。計画や予定が狂うことを、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も」

「自分には足りないとか、あるいは余分だと思いこんでいたことも、環境が変われば真逆にだってなりうるのだ。この地球の上で、同じものでも国や季節が異なれば捉えられ方がさかさまにさえなるように」

「私にとっては、自分が読者として本を買うことも流れの一部なんだよね。出版界を回してるのって、本に携わる仕事をしている人だけじゃなくて、なんといってもいちばんは読者だもん。作る人と売る人と読む人、本って全員のものでしょ。社会ってこういうことだなあって思うんだ」

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