日本のスポーツ指導の現場では絶対君主的な制度が蔓延しているうえに、企業のなかで上司にあたる人たちも部下に対し「ちゃんとやれ」「なんでできないんだ」と圧迫して指導する。それがすでにパワーハラスメントの域に突入していることに本人たちだけ気づいていないー。
これは、佐伯夕利子さんの「教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術」(小学館新書)の序章にある言葉です。
この本には、上のような状況を変えていくための指導法が書かれています。
「スポーツ、教育、家庭、そして、ビジネスなど、あらゆる人材育成の現場」で、新しい時代における指導について考えるのに、とても参考になる一冊だと思います。
副題にある「ビジャレアルの7つの育成術」の7つは、👇の通りです。
ビジャレアルは、スペインで最も堅実なカンテラ(育成組織)を持つと評価されるサッカークラブです。著者の佐伯さんはスペインの男子リーグ3部で女性初の監督を務めるなどした後、2008年からビジャレアルで育成部などで重要なポストを担い、Jリーグ理事も務めました。
ビジャレアルは、2014年から人格形成に軸足を置いた指導改革を進め、120人のコーチ、クラブ所属の心理学の専門スタッフで、指導者の価値観の再構築とマインドセットに取り組んだといいます。
そこでは、一人一人のコーチングスタッフにカメラとピンマイクを付けて指導の様子を撮影してディスカッションしたり、脳科学や行動科学、心理学、教育学のエビデンスをもとに、7つの「教えないスキル」を作りあげたそうです。
本書には次のような言葉が出てきます。
「指導者は、選手の学びの機会を創出するファシリテーター(潤滑油)に過ぎません」
「日本(のスポーツ)には、一生懸命に頑張る文化はあるけれど、選手が自ら考えて行動する文化がなさすぎる」
「考える癖をつけることに重点を置き、考える余白をつくってあげる」
「一方的なコーチングをせず、問いをつくることにこころを砕く」
「選手たちが『学びたい』と自然に意欲がわくような環境を整備する」ー。
まさに、スポーツにおける指導だけでなく、育児や教育、企業などでの人材育成にも通じることだと思います。190ページほどですので、手軽に読めます。お薦めです。