「白バラは散らず」(インゲ・ショル、未来社)は、ナチスに抗して、反ヒトラーそして戦争反対運動をおこして死刑になったハンス・ショル、ゾフィー・ショル兄妹の物語です。

巻末にある訳者の内垣啓一さんの「訳者のことば」によりますと、この本は「姉のインゲが戦後に弟妹の思い出をつづり、付録として当時の反戦ビラをそえたもの」です。日本では1964年に初版が発行されています。

内垣さんは「訳者のことば」で、この書物から特別に感銘を受けた理由を四つ挙げています。そのうちの二つだけ紹介します。

①いわゆる抵抗文学にも、またいわゆる抵抗組織にもかかわりのない無力な学生の、それだけに純粋な苦悩や情熱を、著者もまた文学や政治のしろうととして素直に謙譲にしるしていること。

②特に兄妹の抵抗運動に限ることなく、その生い立ちや家庭の環境や学生生活の雰囲気などが、姉である著者の深い愛惜をこめて、しかも虚飾や私情に汚されずに淡々とかかれていること。

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その上で、「相似た状況下に学生だあった」という内垣さんは自身の心情を次のように吐露しています。

「軍国主義や国家主義を肯定することが出来ないのに、それに抵抗するよりどころを自分の外にも内にもはっきりとつかむことなく終わった私にとっては、からまって一つのおおきな問題を提示するのである。

暴力を至上とする国家組織を破るものは何であるか? あるいは、国家と暴力とが結託して対内的にまた対外的に独裁を主張するとき、その国家の一員である個人は何を以て戦えばよいのか?

兄のハンス・ショルは25歳、妹のゾフィー・ショルは22歳で、大逆罪により死刑となりました。その時について、著者は冒頭部分で次のように書いています。

「新聞は、無責任は裏切り者ー彼らが民族共同体から除外されたのは、身から出たさびというべきである、などと報道しました」

ミュンヘン大学の学生らの非暴力の反ナチ運動「白バラ」メンバーは、ショル兄妹のほか4人が処刑されました。6人の氏名を記し、著者は次のように問いかけています。

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「何をこの人たちはしたのでしょう? この人たちの犯罪はどの点にあったのでしょう? ある者は彼らをあざけり 死人に鞭うったのですが、また他の者は自由の英雄などと口にしました」

「しかし、あの人たちは英雄と呼ばれるべきだったのでしょうか? あの人たちは何も超人的なことを企てたのではないのです。ただ ある単純なことを守ったにすぎない、ある単純なこと、つまり個人の権利と自由、各人の自由な個性の発達と自由な生活への権利とを、背負って立ったにすぎないのです」

   ◇    ◇

8月の特集「戦争と平和を考える」は、10回目の今回で終了します。まだまだ紹介したい本はいっぱいありますが、今後折にふれて取り上げられればと思っています。

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