心に残る名言の数々に出合うことができ、言葉の力をあらためて感じさせてくれます。原田マハさんの「本日は、お日柄もよく」(徳間文庫)は、「書く」「話す」ことについて学ぶことができるうえ、涙あり、笑いありの、励まされ、元気のもらえる小説です。

主人公は二ノ宮こと葉という27歳のOLです。ある日、幼なじみの結婚式に出席し、涙が溢れるほど感動するスピーチに出会います。こと葉は、そのスピーチをした久遠久美という伝説のスピーチライターに弟子入りして…という物語です。

スピーチライターというのは、ちょっと聞きなれないかもしれませんが、演説やスピーチをする人に代わって、原稿を書く職業です。こと葉は、久美さんの指導の元、企業の社長さんのスピーチ原稿などを担当し、「政権交代」を叫ぶ野党のスピーチライターに抜擢されるまでになります👇

この物語には、この伝説のスピーチライターである久美さんをはじめ、主人公の「こと葉」の名づけ役であり日本を代表する俳人の祖母、幼なじみのコピーライターとそのライバル社のコピーライターなど、「言葉」に関わる職業の人々が多く登場します。

このため、「言葉」やスピーチに関しての記述が多くみられます。例えばこんな感じです。

「『言葉は、メッセージカードのようなものよ』/一枚一枚に、自分の思いを書きつける。とっておくもよし、日々眺めるのもよし。必要なくなれば、破っもて燃やしてもいい。死ぬまでずっと、心にしまっておいてもいい。

でも、誰かの目に、耳に触れれば、なおいいだろう。誰かに伝えられれば、なおすばらしいだろう。思いを共有できることもあるかもしれない。心と心を、響き合わせることもできるかもしれない。/言葉の力を、あなたも信じてみたらどう?」

どうですか。とても美しく、読んでいて心地よい文章だと思います。これを書き写していて、読点(、)のうち方や、リズム感など、とても参考になりました。

本書の最初には、「スピーチの極意 十箇条」も記載されています👇

自分の思いをどのように表現したらいいのか、どのように話したら効果的なのか。結婚式や職場などでのスピーチや、あるいは会社などでプレゼンを控えている人には、とても役に立つのではないでしょうか。

ただ、当然ながら、単なる「ハウツーもの」ではありません。
「言葉っていうのは、魔物だ。人を傷つけも、励ましもする。本やネットを目で追うよりも、話せばなおのこと、生きた力をみなぎらせる。この魔物をどうあやつるか。それは、話す人次第なのだ」だからです。

仕事とは家族とは、友情とは、恋愛とは…。人とのかかわりの中で、悩み、苦しみながら成長していく主人公の姿から、私たちも学び、考えさせられ、励まされます。

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東えりかさんによる本書の解説は、次のような本書の引用で始まります。

「困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している」

これに続き東さんは書きます。「本書を読み終わったばかりの方は、また、じわりと涙がこみ上げてきているだろう。本書を読もうかどうか迷って、解説を開いてみた、そこのあなた。このステキな文章はどうして生まれてきたのか、この小説を、ぜひ読んでみてほしい。多分、心に残る名言の一つになると思う」

同感です。気が付けば、私はいっぱい「付箋して」いました。心に残る名言にたくさん出合える、すてきな一冊です。

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