伝えたい内容を意図した通りの感じで相手に送り届けたい―。中村明さんの「語感トレーニング」(岩波新書)は、そんな悩みに答えてくれます。
中村さんは「正確なことば」というのは、単に誤りを含んでいないというだけでは不十分だといいます。ことばがかもしだす雰囲気、ことばとともに伝わる感じ、そう表現することで相手に与える印象としての「語感」の観点からのことばの選択が必要だというのです。
たとえば、「些細」と「瑣末」はどちらも、「取るに足らないどうでもいいこと」をいいます。しかし、「些細」が「細かすぎるところ重点がある」のに対し、「瑣末」は「本筋と無関係であるところに重点がある」そうです。
つまり、話すときも書く時も、「何を伝えるかという意味内容の選択と、それをどんな感じで相手に届けるかという表現の選択」という、二つの別の方向から最適な言葉に迫る必要があるのです。
前者は「意味」で、後者が「語感」です。「意味」は、「その語が何を指し示すかという論理的な情報を伝えるハードな面」であり、「語感」は、「その語が相手にどういう感触・印象・雰囲気を与えるかといった心理的な情報にかかわるソフトな面での表現選択」といえます。
本書の特徴は、Q&A形式で、楽しく語感のトレーニングができるということです。例えば、帯にも印刷されていますが、本文にはこんな問題があります👇
謝罪の深さ、浅さはどう違うのでしょう。みなさん、わかりますか?
中村さんは、同じ謝ることばでもそれぞれ程度の違いがあるとして、次のように解説しています。
「軽い方から『失礼しました』(礼儀にかける意)、『ごめんなさい』(赦免を乞う意)、『すみません』(詫びて弁償しても事は終わらない意)、『申し訳ありません』(弁解の余地もない意)の順に重くなる感じがある」
念のため答えを書きますと、謝罪の程度が深い順番に①→④→③→②だそうです。
もう一つだけ、「快調」「好調」「順調」、もっとも調子のいいのはどれでしょうか?
これは「はじめに」で紹介されているのですが、答えは「快調」です。
「『快調』には『好調』の幅のうちでも特に上のほうをさす雰囲気がある。『好調』の最高の段階をさす『絶好調』もあるが、どこか長続きしない感じがつきまとう。『順調』はもっとも幅が広く、『快調』や『絶好調』の段階を含めて使うことができる」ということだそうです。
本書の著者・中村さんは、岩波書店から「日本語 語感の辞典」を出しておられます👇
こちらは、迷ったときに語感の違い確認できて便利です。ただ、約1万語を取り上げ1200ページもあることから、価格が3720円とお高いですが…。
この「語感の辞典」の冒頭で、中村さんは次のように書いていおられます。
「ことばが運ぶのは、伝えようとする情報だけではない。当人の意図とは関係なく、その事柄を選び、そんなふうに表現したその人自身の、立場や態度や評価や配慮、性別や年齢、感じ方や考え方、価値観や教養や品性を含めた人間性が相手に否応なく伝わってしまう」
誤解を与えず、意図した通りに伝えるためにも、「語感」のトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。