前回(#125 手の内を見せてもらえます 「短歌のレシピ」(俵万智) | アルビレックス新潟と本のある幸せ (husen-alb.com))の短歌に続き、今回は俳句についての本をご紹介します。テレビのバラエティ番組「ブレパト!!」でおなじみ、夏井いつきさんの「超辛口先生の赤ペン俳句教室」(朝日出版社)です。

この本には、「手垢のついた表現」を避ける、「言葉の無駄遣い」をしないなど、俳句だけでなく、文章を書いたりする際にもとても役立つアドバイスがたくさん紹介されています。俳句を考えるための「兼題写真」として、美しい風景写真なども多く載っていて、楽しみながら学べる一冊です。

「ブレパト!!」をご存じない方に説明すると、この番組の俳句コーナーでは、芸能人の方々が兼題写真(毎回出される写真)を見て、句作をつくります。夏井先生は、その作品を辛口で批評し、添削しています。

この本では、兼題写真と芸能人の方々の作品が紹介され、その作品の問題点や課題点などが問いとして提示されています👇

上の画像は、「言葉の無駄遣い」って何? という第3章にあるページですが、まず夏井先生の「言葉の無駄遣い」についての解説があった後、この「中秋の名月」の兼題写真と、芸能人の方々がつくった作品が紹介されています。

同時に、「下五『影ふたつ』が全く同じ二句ですが、どちらがより言葉の無駄遣いが少ない句だと判断できますか?」という質問が書かれています。

このため、兼題写真を見て自分で一句ひねったり、クイズ感覚で答えを考えたりする楽しさがあります。

何よりも、下の画像のように、夏井先生の添削により作品に赤ペンが入れられ、俳句が変わっていく様を見ることができ、とても面白く勉強になります👇

ここで紹介されている2句は、
A 月照らす八坂の塔の影ふたつ(市毛良枝さん)
B 静けさや月見上げたる影ふたつ(NON STYLE  石田さん)です。
「どちらがより言葉の無駄が少ない句」なのでしょうか?

答えはAの作品だといいます。
夏井さんのいう理由を、以下にかいつまんで書きます。


月とあれば「照らす」の3音が無駄遣いですが、それ以外の無駄はない。一方で、Bの方は、「静けさ」は「月」という秋の代表的な季語に内包されているイメージに重なる。さらに、「月」に対して「見上げたる」という5音が勿体ない。

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その上で、「この無駄遣いによって、『月』『影ふたつ』以外の映像が確保できなくなっています」と指摘しています。さすがですね。鮮やかですね。

「言葉の無駄遣い」をすると、限られた字数の場合は他の情報が入らなくなるー。
このため、「『言葉の無駄遣い』を具体的に指摘し、言葉をどう節約すれば良いのか、節約した音数をどう新しい情報に転換していくのかを、一つ一つ解説しています」ので、小論文やツイッターでつぶやく際などでも、とても参考になるのではないでしょうか。

さて、二つの句は、添削されてどうなったでしょうか?

まず、市毛良枝さんの「月照らす八坂の塔の影ふたつ」は、節約した「照らす」という3音を使って「『月』にささやかな表情を添え」て、以下のようになりました。

満月や八坂の塔の影ふたつ
月今宵八坂の塔の影ふたつ

石田さんの「静けさや月見上げたる影ふたつ」は、節約した「見上げたる」の5音使って、さまざまな場所に佇む「影ふたつ」を表現しています。

静けさや月の八坂に影ふたつ
静けさや月の湖面に影ふたつ
静けさや月のロビーに影ふたつ

う~ん、思わずうなってしまいます。

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この本には、夏井さんがよく受けるという質問をピックアップしたというコラム、「知ってトクするQ&A」「知ってトクする実作のコツ」が各章のところどころにあります。

また、最後には「俳句の知識なんて全然ないけど、最初の一句が五分で作れる基本の型」も書いてあり、俳句への一歩を踏み出すには、とてもいい入門書だと思います。

何よりも、「芸人の皆さんの俳句が、ちょっとした添削によって全く違った俳句に変容する『言葉の化学変化』」を、楽しんでみてはいかがでしょうか。

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