和菓子の歴史や奥深さを学べ、デパ地下やそこで働く人々の日常を伺い知ることもできます。「和菓子のアン」(坂木司、光文社文庫)は、さらには謎解きも楽しめる、”おいしい”物語です。

主人公は梅本杏子(きょうこ)という高校を卒業したばかりの女性です。専門学校に行くほど好きなことも見つかっていないし、大学はお金がかかるし、「せめてバイトでもしながら『ピンとくる何か』を探したほうがいい」と、デパ地下にある和菓子店「みつ屋」でアルバイトを始めます。

アンというのは、ちょっぴり太めの主人公につけられた通称です。アンは、店長や和菓子職人志望の若い男性、同じアルバイトの女性、さらには他のテナントの従業員らから、和菓子や接客について学び、失敗し、悩みを抱えながらも成長していきます。

「良いとか悪いとかじゃなくて、後にならないとわからないことが世の中にはある。それはたとえば私が進学も就職もせず、この店に入ったこと。友達に今はどうなの、と聞かれてもまだ答えることができない。ただ前に進むだけだ」。懸命に学び、自ら工夫し続けるアンを、応援したくなります。

物語は5つの章に分けられ、季節に応じた和菓子が紹介されていきます。

例えば7月のお菓子は「星合」「夏みかん」「百合」です。このうち「星合(ほしあい)」は七夕のお菓子で、「黒い餡の地に透明な寒天が流されたお菓子」です。

七夕のイメージといえば普通は「水色の天の川に黄色いお星さま」です。しかし、これは暗い色の中にぽつりと鳥が浮かんでいるという地味なデザインです。どうして七夕なのでしょう?

黒いのは夜空で、星が浮かんでいないのは、まだ天の川が見えないから。ぽつりと浮かんでいる鳥はカササギです。織り姫と彦星が会うためには、カササギが橋を架けてあげないといけません。このカササギは、橋を架けに行く途中だというのです。

織り姫と彦星が出会う前を表現しているなんて、ロマンチックですね。ちなみに、星と星が出会うことから、七夕は「星合」とも呼ばれるそうです。

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和菓子について店長は「この国の歴史よ。この国の気候や湿度に合わせ、この国で採れるものを使い、この国の人びとの冠婚葬祭を彩る。それが和菓子の役目」とアンに説明します。

また、和菓子には、全部の品に物語がついていて、歴史が古いほど、付随する話も多くなり、お茶席で使われたりして逸話があるものだってある、といったことも教えてくれます。

この和菓子にまつわる物語や逸話は、お客さんの変わった言動などの「謎」を解くきっかけにもなります。

季節ごとに、冠婚葬祭といった節目ごとに、私たちの生活を彩ってくれる和菓子の歴史や、それにまつわる逸話を知ることで、きっと和菓子をいっぱい食べたくなりますよ。

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先月は「ビジネス」に関しての本を多くご紹介しましたが、7月は「書く」ことに関しての本を中心に紹介していこうと思っています。そこで、まずクイズです。下の文で、「彼女」っていったい何歳でしょう。

「成人式を迎えた私の1歳年下の弟より一つ年下の彼女」
答えは、ブログ#106(多分7日に更新)で。

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