前回(#96 働く人にとってお守りのような一冊「わたし、定時で帰ります。」(矢野帰子) | アルビレックス新潟と本のある幸せ (husen-alb.com))に続いて、今回も目を引くタイトルの本を紹介します。

「ちょっと今から仕事やめてくる」(北川恵海、メディアワークス文庫)は、ブラック企業で働く隆という青年が主人公です。

彼は「人は何のために働くのかー/入社してから三か月ほどは、そればかり考えていた。/けれどもう、考える気すら起こらなくなった。/辞められないなら働くしかない。余計なことは考えない。/ただひたすらに、一週間が過ぎるのを待つだけ」という人間でした。

心身ともに疲れ切った彼は、仕事帰りの駅のホームで、無意識に線路に飛び込もうとします。その瞬間、ヤマモトという男に助けられます。

ヤマモトは小学生時代の同級生と名乗ります。二人はその後たびたび合うようになり、ヤマモトは隆に様々なアドバイスをしてくれます。

ところがある日、隆が別の同級生に聞いたところ、実際の同級生のヤマモトは海外に滞在中だということが分かります。では、ヤマモトと名乗る男は、いったい何者ものなのかー。


これ以上はネタバレになりますので書きません。さらに、物語の終盤で、隆がパワハラ部長に会社を辞めると告げた際のやりとりがとても痛快で、いくつかご紹介したい箇所があるのですが、これもぜひ読んでいただきたいので1か所だけ紹介させてもらいます。

「でも、そんな僕でも一つだけ変えられるものがあります。それが、自分の人生なんです。そして、自分の人生を変えることは、もしかしたら、周りの大切な誰かの人生を変えることに繋がるのかもしれない。そう気づかせてくれた人がいるんです。友達がいるんです。両親がいるんです」

著者の北川さんは、この作品で第21回電撃小説大賞のメディアワークス文庫賞を受賞しデビューした方といいます👇

この本の「あとがき」に、とても共感できる個所がありましたので、それを紹介します。

「皆さんは何かによって人生に影響を受けたことがありますか?/たとえば、大好きなアイドルが発した一言とか、お気に入りのマンガ家が描いた一コマとか、尊敬する作家が書いた一節とか。はたまた、そばにいる大切な誰かの言葉とか。反対に大嫌いなヤツに言われた一言、なんてこともあるかもしれません。

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私の人生に最も影響を与えてくれたのは、一冊の小説でした。/心が震えました。私もこんな小説が書きたいー。」

北川さんは、「その思いは、『小説を書きたい』と思いながらも一歩踏み出せないでいた私の背中を、見事に押してくれました」といいます。

この本は、カバーの裏にある言葉を借りれば、「スカッとできて最後は泣ける」物語で、「この優しい物語をすべての働く人たちに」読んでいただきたいと、私も思っています。

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