胎児期や乳幼児期、思春期に極度のストレスを感じると、「子どものデリケートな脳は、その苦しみになんとか適応しようとして、自ら変形してしまう」―。
その結果、「脳の機能にも影響がおよび、子どもの正常な発達が損なわれ、生涯にわたって影響をおよぼしていく」というのです。
医師で脳科学者の友田明美さんは「子どもの脳を傷つける親たち」(NHK出版新書)で、こう指摘しています。
体罰や暴言といった大人の不適切なかかわり方(マルトリートメント)で、子どもの脳が物理的に傷付くー。あまりにもショッキングな事実ですが、ぜひ手に取って「勇気をもって読み進めてください」(友田さん)。
「マルトリートメント」とは、「強者である大人から、弱者である子どもへの不適切なかかわり方」だそうです。
それは、
言葉による脅し、威嚇、罵倒、
あるいは無視する、放っておくなどの行為のほか、
子どもの前で繰り広げられる激しい夫婦げんかなども含まれます。
注目したいのは、
「行為が軽かろうが弱かろうが、
子どものためだと思ってした行為であろうがなかろうが、
傷つける意思があろうがなかろうが、
子どもが傷付く行為は、すべて」マルトリートメントだ、ということです。
つまり「虐待とほぼ同義ですが、子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称」で、「子どもに対する大人の不適切なかかわり全般を意味する」より広範な概念なのです。
この本では、
第1章では、明らかに虐待とされるものだけでなく、日常のなかで見受けられるマルトリートメントについても詳しく触れられています。
第2章では、マルトリートメントが、どのように子どもの脳にダメージと影響をおよぼすのか、科学的側面から見ています👇。
そのほか、第三章では子どもの脳がもつ回復力や治療法について、四章では健やかな発育に必要な愛着形成について、ケーススタディを取り上げながら解説しています。
友田さんは序章で、これまで「学習意欲の低下や非行、うつ病や摂食障害、統合失調症などの精神疾患は、主に生来的な要因がもとで起こると考えられてきました」とし、次のように書いています。
「しかし、脳科学の研究が進むにつれ、子ども時代に受けたマルトリートメントが脳に悪影響をおよぼし、結果、こうした症状が出現、もしくは悪化することが明らかになってきています」
終章では「子どもだけでなく親へのサポートの重要性、社会全体で子どもとマルトリートメントの問題を考える必要性」を訴えています。
私自身、思い返せば、子どもに対してマルトリートメントに当たる言動をしらずしらずにとっていたこともあったように感じます。
子どもがいる、いないにかかわらず、ぜひこの本を読んで、マルトリートメントについて知り、傷つく子どもたちを増やさない、守るにはどうしたらいいか、考えていただければと思います。