「ぼくは、小さな頃から、多くのできないことを抱え、悩んでいました。どんなに努力してもうまく行きませんでした。そしてある日、『できない』ということを受け入れました」
これは、早稲田大学ラグビー部の元監督、中竹竜二さんの著書「鈍足だったら、速く走るな」(経済界)の、「はじめに」にあるコトバです。
まず中竹さんは、どういう人かというと、学生時代は一度も公式戦出場経験がないのに主将に選ばれ、指導経験もないのに監督になり、大学選手権2連覇を達成しました。
前任の清宮克幸監督は「強烈な存在感とオーラを持ち、チームの先頭に立つイメージ。体格もどっしりしていて、威風堂々とした雰囲気」でした。それに対し中竹さんは「風貌も雰囲気も指導スタイルも真逆」で、“日本一オーラのない監督”だったといいます。
さて、冒頭に戻ります。「『できない』ということを受け入れ」て、どうしたのでしょう。
「でも、受け入れてあきらめるだけでは、それこそ楽しくない。だから、できることを精いっぱい伸ばし、できないことを補ってあまりある、自分だけのやり方を見つけました」。
しかし、「それは、世間の当たり前からはずれてしまうやり方だったのでしょう。容赦のないバッシングも受けました」といいます。「だけど、自分の足で立っている感覚は、すごく楽しいし、毎日が楽しめるようになった」といいます。
中竹さんが著書で説いているのは「スタイルの確立」と、「自分を超える」ということです。でもそれは「高い目標や理想を掲げ、超人的なパワーで上に伸びていくようなイメージ」とは逆だといいます。
「まずは、どんなに欠点だらけでも『等身大の自分を受け入れる』―これが『スタイル確立』の大前提です。自分のできること、できないこと、自分らしさをきちんと分かったところで、掲げる目標にどう近づいていくか。そこで智恵がわいてくる」というのです。
具体的には、中竹さんは、「フランカーといって、敵にタックルしたりする守りのポジションにいた」のですが、鈍足でも「動き出しやゲームの流れの読み、走るコースを工夫することでカバーできた」。
さらには、「動き方で鈍足をカバーしたとはいっても、ボールを持って走ることが苦手なことには変わりはありません」。そこで「ボールをへたに触るより、タックルばかりやっていたほうがチームには貢献できる」と、練習では、もっぱらタックルに専念したといいます。
さて、中竹さんは“日本一オーラのない監督”だったと書きましたが、ではどうやってチームを大学選手権2連覇に導いたのでしょうか。
中竹監督がとったのは、「トップダウンやカリスマ性でリーダーが組織を率いるのではなく、リーダーについていくフォロワーが自主性を持ってチーム(組織)を支えていく」という考え方だったそうです。
「最終的に決断を下すのはリーダーとしても、フォロワーもリーダーと同じような気持ちでいる組織、チームは強い。とくに変化の激しいいまの時代では、リーダーだけでなく、組織を構成する個々が自分なりのスタイルを発揮し、自律的に動けるようになることが肝要だと考えています」と書いています。
このフォロワーシップについては、中竹さんには「新版 リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは」( CCCメディアハウス)がありますので、興味のある方は、ことらもどうぞ。
また昨年(2021年)出版された「ウィニングカルチャー」(ダイヤモンド社)は、「組織文化」に焦点を当て、「勝ちぐせのある人と組織のつくり方」(副題)を学ぶことができます。
本書には、具体例として「急成長を遂げるベンチャー企業から創業80年以上の老舗企業、巨大グローバル企業、”負け犬根性”から抜け出したスポーツチームなど、幅広い分野の組織」が取り上げられていますので、とても興味深く読めます。
ところで「ウィニングカルチャー」とは何なのでしょうか。中竹さんは次のように定義しています。
「それは、自ら問い続けることです。
『勝ちとは何か』『なぜ勝つのか』『どう勝つのか』『どこまで勝ち続けるのか』ー。
一度導き出した『解』をあえて自分で疑い、自問を繰り返し、過去の成果に甘えることなく、自分の殻を破って謙虚に学び続け、進化や成長を止めないこと」
今季J2優勝とJ1復帰を決めたアルビレックス新潟にも「ウィニングカルチャー」が根付いているように感じます。「謙虚に学び続け、進化や成長を止めない」ことで、来季はJ1で大暴れしてほしいと願っています。