「理想や情熱を持って働きたいというのは贅沢なのでしょうか?」
「先が見えず不安です。自信を持つにはどうしたら良いでしょうか」
「彼女のために、高級ソープ通いをやめるべきでしょうか?」ー。

國分功一郞さんの「哲学の先生と人生の話をしよう」(朝日新聞出版、朝日文庫)は、若い人を中心とした34人の人たちの恋愛、仕事、人生などについての悩みについて、哲学者である國分さんが答えています。

國分さんはすべての相談に正面から向き合います。「『これに対する返答を間違えれば、自分はこの相談者の人生に間違った影響を与えてしまうかもしれない』という緊張感のもとに返事を書いた」(「哲学は人生論でなければならない」と題した「あとがき」)からです。

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相談に答えるため國分さんは相談文、ときにはペンネームから手がかりを探っていきます。それは、國分さんが、「人生相談においてはとりわけ、言われていないことこそが重要である。人は本当に大切なことを言わないのであり、それを探り当てなければならない」と考えるからです。

「言われていない本当に大切なことを」を探っていく作業は、とても興味深く、まるで推理小説を読んでいるようなスリリングな感じを覚えました。

本書は3つの章に分けられていていますが、3章は「仕事も情熱も相談も」です👇

最初の質問は「理想や情熱を持って働きたいというのは贅沢なのでしょうか?」という26歳の会社員からで、広告会社に入ったが希望していた企画部ではなく営業部に配属され、仕事が楽しくないというものです。

これに対して國分さんはまず「正直言うと、悩みが一般的・抽象的すぎてうまく答えられない感じがあります」と書きます。

質問が「なんとなく仕事に不満である。このままでいいのかどうか…。かといって、別の場所に移るべきかどうかも分からない。しかしこのままだと何か自分が腐っていきそうな感覚がある…。」だからです。

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國分さんは「どんな悩み(問題)も一般的・抽象的である限りは解決しないのです」といい、個々の具体的状況を分析すると、必ず突破口が見えてくると書きます。

質問者の、「理想」という言葉の使い方も非常に気になるとして、「それって要するに、理想の自己イメージみたいなやつですよね。バリバリの広告マンとして働いているオレ、みたいな」と指摘します。

國分さんは、それがそもそも一般的・抽象的に過ぎるとし、「そんな理想は絶対実現しないんですよ。だった、一般的・抽象的なものはこの世には存在しないからです。存在しているのは、個別的・具体的なものだけなのです」と、「理想」という言葉の内容を考え直すよう助言しています。

本書のほかの章は第1章が「愛、欲望、そして心の穴」👆、第2章は「プライドと蔑みと結婚と」で、質問は多種多様です。

その回答について國分さんは「見つけ出された答えのほとんどは哲学を通じて発見されたものである」といいます。

その上で、「人生における難題に立ち向かう上で重要な認識を私は哲学から得た。私にとって哲学は人生論である。そして哲学が人生論であることと、哲学が自然や社会や政治についての重要な知見を与えてくれることとはすこしも矛盾しない」。この本は、國分さんのそうした素直な思いが形になったものだといいます。

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最後に、私が「付箋した」多くの中から、もう二つだけ紹介します。

▼誰もが「心の穴」を持っている。けれども、二村さんの言葉で言えば、幸せな人というのは、その「心の穴」を無理に塞いだりしようとせず、おりあいをつけているのです。心からの充実感なんてウソなのです。しかし、ほんのりとした充実感はありえます。横っちょに大きな穴があいていて、もしかしたらそこに落ちてしまうかもしれないけれど、うまくこの辺りに立っていれば落ちないし、楽しいこともできる…。そんな感覚でしょうか

▼「『運がいい』人は、これまで積み上げてきた膨大な情報処理に基づいて、無意識のうちに適切な選択をこれまた積み上げている。『運の悪い』人は、情報をできる限り排するようにして生きていて、計算結果を積み上げていないため、無意識のうちに行われている無数の選択の場面で利用できる情報のリソースが乏しく、適切な選択が行えない」

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