今月は「ビジネス」に関する本を多く紹介してきました。今週は「仕事」にまつわる小説について書こうと思います。まずはこの作品から。「やられたら、倍返しだ!」で、ドラマで人気となった池井戸潤さんの「半沢直樹」(講談社文庫)です。

ドラマは2013年と2020年の2シリーズが放送されました。講談社文庫の「半沢直樹」は、1巻の「オレたちバブル入行組」と2巻の「オレたち花のバブル組」が13年シリーズの原作、3巻の「ロスジェネの逆襲」と4巻の「銀翼のイカロス」が20年シリーズの原作となっています。

上司や銀行、さらには政治家の不正を暴き、理不尽な仕打ちを受けながらも逆境を乗り越え、仕返しをするー。痛快で、「現代版の水戸黄門」ともいわれる勧善懲悪のドラマは、高い視聴率を誇りました。

私は、放映終了後に原作を改めて読んでみたのですが、3巻「ロスジェネの逆襲」に、ドラマでとても強く印象に残った場面のシーンが書かれていましたので、それを紹介します。

この場面は、ドラマでは20年版の第4話、半沢が子会社のセントラル証券に出向となり、IT企業買収案件をめぐり親会社の東京中央銀行と対決する話の最後の回にあります。

半沢は、ロスジェネ世代の後輩との会話で、自身の信念として以下の3つを挙げます。
①正しいことを正しいといえること
②世の中の常識と組織の常識を一致させること
③ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される

「そんな当たり前のことさえ、いまの組織はできていない。だからダメなんだと」といい、その原因はとの問いに、「自分のために仕事をしているからだ」と明快に答えます。

「仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。そういう連中が増えれば、当然組織も腐っていく。組織が腐れば、世の中も腐る」というのです。

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企業の不祥事などが起きた際、原因として「現場の声が届かない」「風通しの悪さ」「ことなかれ主義」といった企業風土が挙げられたりします。

自分の出世のために、上にへつらい、忖度し、異なる意見を持つ人間を攻撃し、見下す。「そいう連中」ばかりが幹部を占めれば、「当然組織も腐っていく」でしょう。

以前、#81 複数の視点で問題を解決する 「多様性の化学」(マシュー・サイド) | アルビレックス新潟と本のある幸せ (husen-alb.com)👇で紹介した中に、「考え方が似通った人々の集団は致命的な失敗を未然に見つけられない。複雑な問題を解決しようとする際には『違う』考え方をする人々と協力し合うことが欠かせないー。」ということが書かれていました。

さらには、「本来は素晴らしく多様性豊かなチームでも、支配的なリーダーがいると、ほかのメンバーは本音を言えず、リーダーが聞きたがっていると思うことを発言する」といいます。

支配型のヒエラルキーでは、「メンバーからの意見の表明は『懲罰』の対象となり得る。支配型のリーダーは集団に懲罰を与えて自身の力を誇示する。彼らは尊敬型のリーダーに比べ『共感力』が低い。ほかの人間の意見などいらないと考え、集団の感情も読もうとしない」というのです。

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冷めた見方をすれば、半沢直樹の物語は中野渡という頭取=良きリーダーがいるからこそ成り立つ、「人事が怖くてサラリーマンができるか」という半沢が倍返しをできる物語であるのかもしれません。

でも、物語の世界で溜飲を下げているだけでは寂しい気がします。半沢は、後輩に次のように話しています。「オレも戦う。誰かが、そうやって戦っている以上、世の中は捨てたもんじゃない。そう信じることが大切なんじゃないだろうか」。

半沢のような強い意志、行動力がなくても、その信念に共感する人が見捨てることなく、声を上げ、とともに行動するー。そうすれば組織、社会は変わると信じたいと思います。

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