個性あふれる、多感な中学生たちが、温かな視線で描かれます。目標に向かって、時にはぶつかり、励まし合う過程で成長していく姿が生き生きと描かれ、心揺さぶられます。

瀬尾まいこさんの「あと少し、もう少し」(新潮文庫)は、山あいにある小さな中学校の陸上部が、駅伝の県大会出場を目指す物語です。

メンバー6人のうち陸上部員は3人で、助っ人として不良の太田君ら3人が加わります。その上、顧問は、長らく務めていた名物体育教師が異動となり、陸上は素人の美術担当の女性教師・上原先生です。

物語は、1~6区を走る生徒それぞれの独白として展開されていきます👇

そこでは、レース中の心境だけでなく、これまでの練習や学校生活で感じたこと、メンバーへの思いが吐露されます。自分とは、友だちとは何だろう。彼は自分のことをどう思っているのだろうー。
例えば、こんな具合です。

「誰だって、本当の自分なんて見せられるわけがない。生きていくってそういうことだし、集団の中でありのままでいられるやつなんていない。太田は必要以上に悪ぶっているし、桝井は自分をコントロールしているし、設楽はびくついて周りの顔色ばかり見ている。そして俊介だって…。何もつくろっていないやつなんていないのだ」

「広告」(クリックすると別サイトに飛びます)

6人の中には、不良の太田君のほか、両親が離婚して祖母に育てられている生徒や、元いじめられっ子などさまざまな境遇の生徒がいます。人それぞれに見える景色、世界は違います。

練習での一コマについての感想、ある選手の評価につて、語り手によって全く違っていたり、「つくろっている」ことを見抜かれ温かく見守られていたりといったことがあります。それぞれの思いが繋がり、一つとなってゴールへと向かっていきます。

瀬尾さんには、この不良の太田君を主人公とした「君が夏を走らせる」(新潮文庫)という作品があります👇

高校2年生になった太田君が、先輩から頼まれて1歳半の娘の子守を1か月ほどするという物語で、中学時代の駅伝大会のことが振り返られたり、顧問だった上原先生との偶然の出会いがあったりします。

詳しい内容には触れませんが、1か所だけ、上原先生が太田君に語る言葉だけ紹介します。


「太田君が走るのは、今まで通ってきた場所じゃなくて、これから先にあるってこと。まだ16歳なんだもん。わざわざ振り返らなくたって、たくさんのフィールドが太田君を待っているよ」

「広告」(クリックすると別サイトに飛びます)

どちらの作品も、温かく、爽やかで、目頭が熱くなります。
やり直してみようか、何かにチャレンジしようか、という力をもらえます。

もう少し「あと少し、もう少し」から、私が「付箋した」箇所を追加して終わりにします。

「人生失敗が大事って、よく言うじゃん。マイケル・ジョーダンだって、俺は何度もミスしたから成功したって道徳の今教科書で言ってるしね」

「声が力になる。ベタだなと思うけど、走るたびにその大きさを思い知る。みんなの声に、おれの中の単純な部分はちゃんと反応する。もっと走れるんだと自分が生き生きしていくのがわかる。みんなの期待は、おれの持っている力よりもずっと大きな何かを動かしてくれる」

「広告」(クリックすると別サイトに飛びます)