夢をあきらめない時間が人を強くし、支え合うことで互いの夢がかなうー。
島沢優子さんの「左手一本のシュートー夢あればこそ! 脳出血、右半身麻痺からの復活」(小学館文庫)は、「人は人に支えられ、生かされているー」ということを教えてくれる一冊です。
この作品は、高校入学直前に脳出血で倒れて生死をさまよい、右半身が不随となった少年が、バスケットボールのコートに戻るまでの1167日間の軌跡を紡いだノンフィクションです。
主人公は、田中正幸さんという中学時代は山梨県内ナンバーワンともいわれた選手でした。1年のリハビリ後に高校に入学し、バスケ部に入ります。
3年間、利き手ではない左手でのドリブルやシュート練習を繰り返し、仲間たちへの助言や練習の準備なども率先して行います。
3年生の全国大会予選で、田中さんはベンチ入りします。部員全員が納得してのことでした。みんな、彼が誰よりも頑張ったり努力していることを知っていたからです。そして彼は左手一本でシュートを決めます
田中さんは、家族や仲間ら多くの人びとに支えられました。
顧問の先生も、その一人です。
チームはインターハイを目指していましたが、そんな中、事前に田中さんにシュートを打たせるためのフォーメーションを考え、練習をします。
ただ勝つことだけを目指している監督ではなく、「選手として以上に、一人ひとりを人としてきちんと育てて卒業させる」という教育者としての信念を持っている方なのです。
島沢さんの作品として、#37で「桜宮高校バスケット部体罰事件の真実」(朝日新聞出版)を紹介しました。そこに描かれていた体罰を繰り返していた指導者とは、真逆の教師ですね。
「正幸を支えようと懸命にやってきましたが、振り返ると、こちらのほうがあいつに支えられていたと思うんです」。まさに、人は、支え支えられて生きているんですね。
ちなみに、一番上にある写真のカバーの題字は田中正幸さん本人が書かれたものだそうです。
最後に、私が「付箋した」ものを二つだけ紹介して終わります。
「泣かない理由の言い表し方は異なるものの、両者とも敗れた瞬間に前を向くため涙をこらえる。『次は負けない。おれは負けっぱなしじゃない』そんな強い自意識が、敗者というつらい現実を希望に変えるのだろう」
「バスケットボールはチームスポーツですから。とにかく全員の力を結集して、自分たちのバスケットボールをやって、それでも勝てなければ相手チームに祝福の拍手を贈る。それでいいと。相手チームの分析はするけれど、何か小手先で勝つというか、自分らのやり方を変えたりというのは僕は好きではないんです」