考え方が似通った人々の集団は致命的な失敗を未然に見つけられない。複雑な問題を解決しようとする際には「違う」考え方をする人々と協力し合うことが欠かせないー。
「多様性の科学」(マシュー・サイド著、ディスカヴァ―・トゥエンティワン)は、組織においては多様性が重要であり、新製品の開発から疾病の治療まで、ひいては気候変動や貧困の問題といった複雑な物事を考えるときは、「一歩後ろに下がって、それまでとは違う新たな視点からものを考える必要がある」と説きます。
多様性には、性別、人種、年齢、信仰などの違いが「人口統計学的多様性」として分類されますが、この本では、この種の多様性のほかにも「認知的多様性」についても検討されています。
ものの見方や考え方が異なる「認知的多様性」は、数百年前まではそれほど重要視されなかったといいます。当時の人々が抱えていた問題は、今と比べれば単純で、いわば計算で正解を弾き出せるものでした。
しかし、「計算では解決できない難題になると話が違います」。その場合は、つまり現代は「同じ考え方の人々の集団より、多様な視点を持つ集団の方が大いにーたいていは圧倒的にー有利」だからです。
本書は、👇の目次の一部を見てもらえば分かりますが、豊富な失敗例や成功例を示しながら、認知的多様性の大事さを科学的に説明していて、とても興味深く読めます。
具体的には、多様性がなかったCIAのミスや、アメリカ空軍が1950年代に数多くの墜落事故を起こしたのはなぜか、オランダはいかにしてサッカー革命を起こしたのか、なぜダイエットや食事療法の大半に効果がないのかーといった具合です。
著者は「本書を読み終える頃には、それまでとは違った視点から新たな成功の法則が見えてくるはずだ」といい、その上で「政府機関や企業ばかりでなく、あなた自身にとっても役立つに違いない」と書いています。
個人的に、特に面白いと思ったのは、本来は素晴らしく多様性豊かなチームでも、「支配的なリーダーがいると、ほかのメンバーは本音を言えず、リーダーが聞きたがっていると思うことを発言する、あるいはリーダーの意見をオウム返しに唱える」ということです👇
支配型のヒエラルキーでは、「メンバーからの意見の表明は『懲罰』の対象となり得る。支配型のリーダーは集団に懲罰を与えて自身の力を誇示する。彼らは尊敬型のリーダーに比べ『共感力』が低い。ほかの人間の意見などいらないと考え、集団の感情も読もうとしない」
これに対して「尊敬型のリーダー」は、「賢明な判断には集団の知恵が欠かせないと考え、メンバーの声によく耳を傾ける。それによって信頼の絆が強まる」。その結果、「集合知の形成に拍車がかかる」といいます。
今の日本には、この「支配型のヒエラルキー」がいあまだに多く残っているように思います。たくさんの方に読んでいただきたい一冊です。