アルビレックス新潟はきょう3日、午後1時からアウェーでロアッソ熊本と対戦します。前節の千葉戦は、試合終了直前に失点し悔しい敗戦となってしまいました。今日こそは勝ち点3を奪取し、新潟へ戻って来てくれると信じています。

さて、当店では小説や人文、社会科学系、スポーツなどの本を多く取り揃えています。ブログでは、特集だけでなく適宜その他の本も紹介していきたいと思っています。
きょうは、コラムニスト・えのきどいちろうさんの「アルビレックス散歩道」(アルビレックス新潟/エイヤード)について書かせていただきます。

えのきどさんは2009年シーズンから、アルビレックス新潟の公式HPにコラムを掲載しています(以前は毎週、いまは隔週)。それをまとめた「アルビレックス散歩道2009―2010」に掲載されている「僕は思うんだ。」という一文をまず読んでみてください。

   僕は思うんだ。

アルビがなかったらこんなに跳んだだろうか。
アルビがなかったらこんなに泣いただろうか。

こんなに夜行バスに乗っただろうか。
こんなにハッピーターンを食べたろうか。
こんなに週末を待っただろうか。
こんなに青春18キップで旅したろうか。
こんなに親と会話したろうか。
こんなに友達ができただろうか。
こんなにワールドカップを楽しみにしただろうか。
こんなにうまいもんを食べ歩きしただろうか。
こんなにレプリカを買ったろうか。
こんなにお国自慢をしただろうか。
こんなに三宝へ通っただろうか。
こんなにゲーフラを作っただろうか。
こんなにボールを蹴っただろうか。
こんなにブラジル人に親近感を持ったろうか。
こんなに新潟日報を読み込んだろうか。
こんなにツイッターでつぶやいただろうか。
こんなにオレンジ色の服を買っただろうか。
こんなにセーローへ行っただろうか。
こんなに三条ラーメンについて考えただろうか。
こんなに清五郎へ来ただろうか。
こんなに春が来るのを待ちわびただろうか。


こんなにしびれただろうか。


こんなに新潟を想っただろうか。 

いかかでしたか。
私にとっては、アルビレックスがあるおかげで、
こんなに子供と会話でき、こんなに友達ができ、こんなに泣いて、こんなにしびれることができました。アルビに感謝です。このまちにアルビのある幸せです。

物語のなかを生きてる

えのきどいちろうさんの「アルビレックス散歩道」は、2011年シーズン分から1シーズン1冊となりました。

その2011年シーズンのまえがきで、えのきどさんは、川又堅碁選手がJ2の岡山にレンタル移籍して(当時、アルビはJ1でした)ゴールを決めまくったことに触れ、「まぁ、華麗なる『惜しいシュート』集につき合った人間として、その続きも見たかった。今度、新潟へ戻ってきてじゃんじゃんゴールを決めたら、そりゃ嬉しいけど、ちょっと寂しい感情も残りますよね。ケンゴが何かをつかまえるとき、一緒にいたかった。」と書き、続けます。

「だから成長っていうのかな、進化でもいいけどそういうプロセスをずっと見たいっていうのがクラブチームを応援する本音のところですね。そこが面白い。僕は逆のことも思いますよ。衰える選手がいるなら、それも受け止めたい。衰えて、以前できたことができなくなって、それでも経験や読みでカバーしながら戦ってくれてる的な姿はジーンと来る。つまり、僕らは物語が見たいんです。物語のなかを(長距離バスや青春18きっぷの電車に乗って、あるいはビッグスワンの『いつもの席』に抱かれて)生きてるようなもんだ」

「散歩道」には、アルビのすべての試合についてが書かれています。一つ一つの物語を「あ~、こんなことあったな~」、「あんときは最高だったな~」と振り返りながらシーズンごとの短編集として、さらには永遠に続くアルビの成長物語として読めます。書籍化は終わってしまった(中断中?)のかわかりませんが、コラム自体は永遠に続いてほしいと願っています。

新潟ってのはね、絶対あきらめないんだ。

2012年は、忘れられないシーズンとなりました。「散歩道」の表紙は、「史上最大の入り待ち」作戦の絵で飾られ、それをめくると次のような言葉があります。

「この姿を見てくれ、
一体、誰があきらめている?
この姿に感じるものがなかったら
サッカーなんて見る価値がない。
いいかい新潟ってのはね、
絶対あきらめないんだ。」

2012年は「奇跡の残留」の年でした。
えのきどさんは、まえがきで「2012年シーズンの最終節で起こったことは文字通りの『奇跡』じゃないかな。上2つを抜いて残留ってフツーあり得ないでしょ。スポーツはものすごいね。「フツーあり得ない」を何万人が見に来て、実際に見ちゃうんだ。TVで見ていた人はもっと多いんだ。」と書いています。

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そして「疑いなく美しいもの」と題した最終節のコラムは、次のように締めくくっています。

「陽は落ちて鳥屋野潟は真っ暗だ。強い風が吹きつけている。しかし、照明の光のなかで誰も寒さを感じていない。新潟は引き分けても降格というラスト2戦で今季初の連勝を飾った。10勝10分14敗、勝ち点40で順位をふたつ上げ、残留を決める。ボトム3を脱したのは実に8月以来だった。本当に『奇跡』を起こした。俺たち、やり遂げたんだよ。ありがとう。最高泣けるなぁ」。泣けますね。打ってるパソコンの文字がにじんでいます。

このご自身の最終節のコラムにつて、えのきどさんはまえがきで
「僕は最終節の記事はとにかく時系列に沿って、ていねいに書くのを心掛けた。どう書いても成立するんですよ。料理の仕様はいくらでもある。だけどね、あの日あったことを誰でもすぐ思い出せるようにしたかった。何度でも思い出すが価値があるでしょう。この先くじけそうになったとき、何度でも勇気を与えてくれる経験だ」と書いておられます。

くじけそうになったとき、本棚から抜き出してページをめくれば、勇気を与えてくれる言葉の数々に出会える。これも本のすばらしさの一つですね。

さて、本の「アルビレックス散歩道」には毎年、インタビューなどが掲載されているのですが、2012年シーズン版には、「奇跡の残留劇を振り返る」と題したインタビュー集として、かつてゴール裏でコールリーダーをなさっていた浜崎一さんとともに、なぜか私も登場します。さらには、えのきどさんが新潟日報で連載されていた「新潟レッツゴー!」の、最終節について書かれた分も載っています。とても素敵で、心に響く文章ですので、後半部分だけ引用させていただき、終わりにしたいと思います。

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「僕は『チーム新潟』の勝利を見た。ヒーローはこの街、この郷土だ。苦しくなってもあきらめない。苦しければ皆で助け合う。それは『12番めの選手』、サポーターの精神でもある。僕は試合前、ビッグスワン正門前に結集した3000人の『入り待ち』に参加しながら、昔、雪の上越でクルマが脱輪したときのことを思い出した。路肩の側溝が雪で見えなくなっていた。クルマを降りて往生していると、通りかかったクルマが4台くらい次々に停まる。で、こちらが事情を言う前に皆でよいしょと持ち上げ、お礼も聞かずに「じゃ」と行ってしまった。雪国の人は助け合って生きるんだなぁと感動したのだ。

『史上最大の入り待ち』作戦にも雪国のフツーの人々が集まり、皆でよいしょとチームを持ち上げていた。で、びっくりするじゃないか、持ち上がったんだよ! 『奇跡』はそんな風に起きたんだ。僕は寒さではなく、気持ちが突き上げてきて震えた。感動しても身体は震えるんだよ。

皆、一生忘れないことにしよう。無力感にとらわれる日もある。悲しい出来事もある。だけど、助け合って『奇跡』は起こせるんだよ。幸福なことに僕らをそれを知っている。」

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