「一般通念では、スコアボード上で勝つことに集中すれば、勝てる可能性が高まると思われている。しかし、スポーツ心理の研究でわかり始めてきているのはその逆で、スコアボードを意識すると、スコアボード上で勝利するする確率が低くなるというのである」
これは、前回#60でご紹介した「ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法」(ジム・トンプソン著、訳・鈴木佑依子、東洋館出版社)にある一文です。
英国のスポーツ心理学教授の、2000年シドニー五輪に出場したノルウェーとデンマークの62人についた研究で、「勝つことではなく、熟達することに集中するよう指導された選手の方が、より多くのメダルを獲得し、スコアボード上よい成績を上げていた」ことが分かったそうです。
著者は、「これは『勝つのは大抵の場合、より勝つことを意識したチームや選手である』というスポーツの大神話に反する事実である。私は監督がこう言うのを幾度となく耳にしてきた。『あのチームが勝てたのは、勝ちたいという気持ちが相手より強かったからだ』と」と書いています👇
その上で、次のように続けます。
「一見信じがたいことかもしれないが、ご自身のスポーツ経験を振り返って考えてみてほしい。何か本当にほしかったとき、その強い気持ちが逆に妨げになってしまったという経験はないだろうか。研究の結果、選手がスコアボードの数値に集中すると、ある現象が起こるということがわかってきている」
ある現象とは何でしょう。それは「選手の不安感が増幅される」といことだそうです。
「スコアボード上の勝利が何よりも大事だと考える選手は、『負けてしまうのではないか』という不安を感じ、貴重な気力を費やしてしまう。問題となるのは、不安になったり緊張したりすると、失敗しやすくなってしまうということだ。失敗を恐れるようになると、ためらったり臆病になったりしてしまうのである」
逆に「熟達することに集中すると、不安感が減少し自信が増すことが多い。不安感が減少すると、以前よりも競技が楽しいと感じるようになる。自信が増すとこれ以外にも、様々ないい変化が訪れる」といいます。
21日の上位対決に快勝したアルビレックス新潟の試合を見ていて、私は上に書いてあるようなことを感じました👇
勝てば2位に浮上し、負ければ2位との勝ち点差が6に広がってしまうという重要な一戦でしたが、アルビレックスは試合開始26秒に先制すると、その5分後にもゴールを決めました。
選手たちは試合開始早々から躍動し、ゲームを楽しんでいるように見えました。
もちろん「勝ちたい」という気持ちも強かったでしょう。しかしそれ以上に、一人一人の選手たちからは、「どんな試合でも主導権を握る」「J1で十分に戦えるチームになる」という目標に向かって、成長し続けるという、強い意志を感じました。
この本には次のような記述もあります。
「シーズンが進み、試合の重みが増し、監督として(また、まわりの人々も)勝ちたいという思いが強くなると、熟達への意識が弱まってしまうことが多い。熟達することに集中すると、元々の実力よりも高い実力を発揮したり、トーナメント出場権を得たりするかもしれないが、その後知らず知らずのうちに得点志向の誘惑に負け、そもそもトーナメント出場を可能とした熟達志向を忘れてしまうのである」
アルビレックス新潟は、アルベルト監督の2年間の指導により、攻撃的なサッカーの土台が築かれました。そして今季は、松橋力蔵監督の下、前への意識が強まり、誰が出ても高いレベルで戦えるほどチームの層も厚くなっています。
しかしまだ、完成されたわけではありません。今後も「熟達志向」を忘れることなく、さらに成長し続けて、しっかりとJ1で戦えるチームとなって、J1昇格を成し遂げてくれると信じています。