新潟の高校が全国の頂点に挑む
ひいきのチームが勝った翌朝は気持ちよく目覚め、次の試合がある週末まで楽しく過ごすことができます。アルビレックス新潟が3日、アウェーで熊本に逆転勝ちして最高の気分です。
FW谷口海斗選手の超ロングシュート同点弾、けがから復帰したFW鈴木孝司選手の後半アディショナルタイムの逆転ヘッド。ともに素晴らしいゴールでした。10日にホームのデンカビッグスワンである栃木SC戦が待ち遠しいです。
さて今回は、新潟市出身の綾崎隼さんの「レッドスワン」シリーズ(メディアワークス文庫)をご紹介します。新潟市の私立高校が全国制覇を目指すというサッカー小説であり、青春小説ですが、次のような文が出てきます
「僕らは新潟で生まれ、新潟で育った。
あのオレンジと青のユニフォームを、いつだって一心に見つめてきた。
世界一の選手が、ペレでも、ディエゴ・マラドーナでも、関係ない。
ヒーローは永遠に、マルシオ・リシャルデスであり、レオ・シルバだ。
たとえ降格を経験しても、どんなに残念な年があっても、アルビレックス新潟だけに憧れてきた。」(「レッドスワンの死闘」)
うれしいですね。アルビレックス新潟のサポーターの方々に、ぜひ読んでいただきたいです。
さらに、サッカーのルールや戦術などを、サッカーに詳しくない人にも分かりやすいように書いておられますので、サッカーについてもっと知りたいという人にもお薦めです。
シリーズは全6巻ですが、甘酸っぱい恋愛物語も織り込まれていて、個性的なキャラクターたちが躍動し、試合の描写も臨場感あふれていますので、一気に読めます。一冊650円程度です。ぜひ本屋さんで購入していただきたいと思います。
女性監督と天才ストライカー
物語は、新潟市にある私立・赤羽高校サッカー部、通称「レッドスワン」を舞台に、天才ストライカーの高槻優雅と、25歳の女性監督・舞原世怜奈の2人を軸に展開します。
シリーズは全6冊で、1~3作の「レッドスワンの絶命」「レッドスワンの星冠」「レッドスワンの奏鳴」が第1シリーズで、主人公の高槻優雅は2年生。4~6冊目の「レッドスワンの飛翔」「レッドスワンの混沌」「レッドスワンの死闘」がセカンドステージです。
レッドスワンは新潟屈指の名門サッカー部ですが、廃部寸前の危機に追い込まれます。30年以上指揮してきた監督に代わって舞原世怜奈が就任すると、世怜奈は、試合中に大けがをして練習できない高槻優雅をパートナーに選び、名門の意識を根底から変えていきます。
例えば、放課後のチーム練習は2時間以内と定められます。
「大切なのは時間ではなく質と密度である。知性の伴う練習の重要性を、世怜奈先生は就任当初より何度も説いていたが、未熟な高校生にとっては個人練習も必要不可欠なものだ」(「星冠」)といった具合です。
ストーリーについては触れませんが、サッカーに関する「言葉」のいくつかを、「レッドスワンの星冠」の中から、以下に紹介します。
「サッカーはあらゆるスポーツの中で、最も知性に左右される競技である。何故ならオフ・ザ・ボールの動きが、競技構成の最重要位置を占めているからだ。
ボールに触っている瞬間なんて、統計を取って見ればわずかなものである。ドリブルが得意な選手でも、十秒もボールを保持すれば潰されてしまうだろう。攻撃時、ボールを持っていない時に何処へ走るのか。守備であれば何処のスペースを潰すべきなのか。それを見極める知性こそがサッカーでは重要になる。局面の戦いなど積み重ねた準備の上澄みでしかない」
「テクノロジーの進歩と共に、あらゆる分野がデータ化されるようになり、サッカーは経験や勘だけでは勝てない競技となった。より知性が重要視されるような現代において、指導現場に若い芽が台頭するのも、当然の流れなのだろう」
「世怜奈先生はゴールが生まれた時、フィニッシャーより先に、お膳立てをした選手を褒める。得点を決めた選手の働きは誰の目にも明らかだ。だからこそ、まずは後ろに回った人を評価する」
「世怜奈先生は試合後、VTRを見ながら、サポートの動きをした選手を必ず褒める。それがいかに効果的な動きだったのかを全員に説明して見せる。
監督がきちんと見てくれているからこそ、レッドスワンではチームのために走ることを嫌がる人間がいない」
なんだか、すべての指導者、さらには管理職・経営者、組織がこうあってほしいですね。スポーツからはいろんなことを学ぶことができます。これもスポーツも大きな魅力ですね。
あふれるサッカー愛
著者の綾崎隼さんは、新潟市出身です。「星冠」の文庫版あとがきによりますと、「ティーンエイジャーの頃、心を最も強く捉えていたスポーツはバスケットボールでした」といいます。
ところが17歳の時、フランスで開催されたサッカーのワールドカップを見るために、友人が学校を2週間休んだことをきっかけにサッカーに興味を持ち始めます。
「大学生になり、私はようやくサッカーの本質的な魅力に気付き始めます。
折しも、故郷ではアルビレックス新潟がJ1昇格を目指して戦っている真っ最中であり、日本国内は初めてのワールドカップ開催に向けて、盛り上がりを見せている時期でした。
日韓ワールドカップが始まった頃、私は教育実習生として母校の教壇に立つため、帰郷することになりました。そして、実習の歓迎会のために出向いた新潟駅で、忘れられない光景を目にします。
なんとイングランド代表のサポーターが、小さな軽自動車に、ぎゅうぎゅう詰めにたって6人も乗っていたのです。体格の良いイギリス人が軽自動車に6人も乗れるはずがありません。普通に窓からはみ出していました。そもそも道路交通法違反です。
遠く、フットボールの母国からやってきた彼らは、サッカー後進国で生まれ育った私たちに、真の情熱というものを見せようとしてくれていたのでしょう。満面の笑みで手を振ってくる姿に、不思議と胸が熱くなったことを覚えています」
引用が、ちょと長くなり申し訳ありません。日韓ワールドカップから、今年で20年ですね。同じような経験をした方もおられるのではないでしょうか。懐かしいですね。
綾崎さんは、「絶命」の文庫版あとがきには「私はサッカーを愛しています。今も毎週のようにプレーしていますし、何度、大きな怪我を繰り返しても、情熱の火が衰えることはありませんでした」と書いています。
「混沌」では、世怜奈監督に、「敵チームとの相性、審判の判定、気候、グラウンドコンディション、サッカーには偶発的な要素が極端に多い。私はだからこそ面白いと考えているし、ジャイアントキリングが起こると思っている。人間のミスと偶発性、その二つを踏まえた上で、最強の戦術とは何かを考え続けてきた」、とも語らせています。
サッカーを愛する綾崎さんだからこそ、多くの人にサッカーの面白さを知ってもらいたいという思いからでしょう、作品には用語解説があり、サッカーのプレーや戦術などが詳しく分かりやすく書かれています。それに加え、高校サッカーでの指導の在り方、全国大会の過密日程の問題点なども指摘されていてます。サッカーについてあまりよく知らない人から、サッカーをよく知っている人まで、幅広い方に読んでもらいたいシリーズです。
アルビにも関心
綾崎さんは新潟市出身で、レッドスワンは新潟市にある高校ですから、作品には新潟市陸上競技場や阿賀野川河川敷など、新潟の地名が出てきます。さらには、県大会でのレッドスワンの対戦相手が「長潟工業高校」や「高田学院」だったりして、新潟県に住んでいる人、出身の方には楽しめます。
さらには、アルビレックス新潟に関しての記述も、冒頭でご紹介した以外にも、
「新潟に暮らす者なら、誰もが知っている伝説のゴールがある。アルビレックス新潟に所属したブラジル人、アンデルソン・リマが2005年の5月に決めた決勝ゴールだ。(「飛翔」)
「『アルビレックス新潟でプレーすることだ』
新潟で暮らすサッカー少年なら、絶対に誰もが一度は見る夢。
『東京育ちの華代には分からないかもしれないけど、俺たちにとっては物心がついた時から特別なクラブなんだ。悪い時期があっても、つまらないサッカーしか出来ない年があっても、関係ない。憧れなかった瞬間なんてない』」(「飛翔」)、などが出てきますので、アルビサポーターの方々には、たまらないのではないでしょうか。
綾崎さんはツイッターもやっていて、ホーム山口戦があった3月5日には
「JリーグNo. 1アタッカー、至恩君の今日のゴールパフォーマンス。 試合中は意味が分からなかったんだけど、そういうことだったのか。」とツイートしていました。
さらには、アルビの公式ツイッターの、本間至恩選手のゴールシーンの動画を上げたツイートを引用リツイートし、「ゴールシーンはこれ。 サッカーが好きな人には理解してもらえると思うんだけど。 このスピードで、ボールの軌道が変わらないファーストタッチ、えぐすぎないですか。 ファーストタッチ、どの瞬間?????」と、つぶやいておられました。
「JリーグNo. 1アタッカー、至恩君」いいですね。もっともっと輝いて、アルビをJ1昇格に導き、綾崎さんにも何度もツイートしてもらいたいですね。